キクタニギクは、日本(岩手県以南)、朝鮮半島、中国東部に分布する多年草です。黄花で小輪の野生菊であるシマカンギクとよく似ていますが、キクタニギクの方がさらに小輪で、葉の切れ込みも細かく深くなります。日本新薬(株)のホームページ(LINK)、および当資料館ホームページのSDGsのコーナー(LINK)でお伝えしている通り、当資料館では京都市東山にある菊渓でキクタニギクの自生復活を目指す「キクタニギクの花咲く菊渓の森づくり」プロジェクトに協力しています。ここでは苗づくりと、京都駅緑水歩廊と京都御苑閑院宮邸跡での展示鉢についてのお話です。
キクタニギクは、基本的にはイエギクと同じキク属(Chrysanthemum)なので、冬芽(冬至芽)や挿し木で容易に増やすことができます。そこにさらに、苗や展示鉢としてのクオリティを求めます。冬至芽から育てた苗は1年で高さ1m以上に育ち、倒れやすくなります。地植えで苗から2年目以降の株も同様です。地植えの場合は斜めや横倒しに育っても自然の姿で良いですが、鉢の場合は大きすぎるのは見栄えが良くありません。プロジェクトに参加した当初は途中で剪定すればよいと思っていましたが、キクタニギクは頂芽を切ると側芽が横へ張り出し、非常にまとまりがなくなってしまうのです。試行錯誤の上でたどり着いたのは、「展示の時期から逆算して、ちょうどよい大きさに育つように挿し木の時期を遅らせる」ことです。これで、8号の菊鉢に50~60cmの高さで展示できるようになりました。
次の課題は、展示時期に開花を合わせることです。緑水歩廊や閑院宮邸跡には各地から展示鉢が集まりますが、他で栽培された展示鉢と比べると、山科植物資料館の鉢は開花が早いのです。樹木に囲まれた植物資料館内の栽培棚は、道路から離れているので街灯の影響を受けないようです。今のところは、早く開花する当資料館の株と遅く開花する他の株を組み合わせることで、長期間の開花展示を実現できているようです。ですがあまりに早く咲き終わってしまうと寂しいものですから、電照によるコントロールを考えてみても良いかもしれません。
閑院宮邸跡での展示(2022年撮影、前列3鉢を山科植物資料館が提供)