灰褐色の樹皮が部分的に絶えず剥げ落ちて、その部分が紅黄色に見え、まるでばくち打ちがばくちに負けて身ぐるみ剥がれているようだ、ということから名付けられたといわれているのが、バクチノキです。
本州の房総半島より西、四国の太平洋側、九州、沖縄、台湾、中国に分布する常緑高木で、谷あいや山の斜面などに生え、樹高15m、直径1mにもなることもあります。
葉の質は厚くてかたく、有柄で長楕円形をしており、ときには長さ10cmを超えることもあります。表面は光沢のない緑色で毛は無く、縁には内側に曲った鋸歯を持っています。
晩夏に写真のようにたくさんの花が密集した長さ3cmほどの総状花序を葉腋から出し、果実は翌年の初夏に成熟します。熟すと紫色を帯びた黒色になり、長さ1.5cmほどの楕円形に果実をつけます。
葉はバクチ葉と呼ばれて、新鮮なものをもむと青酸臭がします。青酸配糖体のプルナシンやプルラウラシンを含んでいて、プルナシンは加水分解によって、ベンズアルデヒド、青酸とブドウ糖に分解されます。この新鮮葉を枝つきのまま水蒸気蒸留して得た留分をバクチ水といってかつては、鎮咳去痰薬としてキョウニン(杏仁)水の代用として用いられたばかりか、キョウニン水製造原料として公定書で規定されたこともありました。このようにバクチノキから製造したものは、バクチ製キョウニン水とよばれました。
分類学的には、広義のサクラ属(Prunus)としてPrunus zippelinaとされることもありますが、熱帯性で常緑のサクラの属するバクチノキ属(Laurocerasus)に属し、この属には日本ではバクチノキとリンボクがあります。
またヨーロッパ東南部から西アジアにはセイヨウバクチノキ(L.officinalis)が分布しており、庭園樹としてもよく利用されています。