日本の医薬品を規制する法律として「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」(旧薬事法の後身)があります。では例えば、漢方薬や健康食品のようなクスリか食べ物か境界のあいまいに感じられるものに対して、「これは医薬品(原材料)、これは医薬品(原材料)とはみなさない」とはどのように区別するのでしょうか。それが「食薬区分」です。正確には厚生労働省医薬食品局長による「医薬品の範囲に関する基準」の別添2「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」および別添3「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」になります。一般には別添2は「医薬」、別添3は「非医薬」のリストとみなされます。さてこのリスト、現在は「名称」欄だけでなく「他名等」欄に和名や一般名、学名も追記されましたし、関田節子ら著「学名でひく食薬区分リスト」(2014年)や佐竹元吉ら編著「健康・機能性食品の基原植物事典」(2016年)などが刊行されかなり調べやすくなりました。しかし、10年以上前は現地名のみや一般名の誤記もあり、その名称が指す植物が実際は何なのか、わかりにくいものでした。
今月の花、フウセンアサガオは別添3「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に「オペルクリナ・タルペタム」(平成31年3月22日発令のリストでは「オペルクリナ・タルペタ」)の名称で記載され、比較的容易に学名を推測できる植物です。せっかく和名があるのですからリストも和名で書いてほしいところですが、植物の専門家が作成したわけではないので手の届かないところがあるのかもしれません。フウセンアサガオは沖縄から東南アジアに広く分布するつる性の多年草です。ヒルガオ科らしく、花の形はアサガオそのままです。葉は心形から披針形、茎には翼があります。葉脇から出る花序は苞に包まれます。花は白色。朝の9時~10時頃に開花し、15時頃にはしぼむのでアサガオというよりもヒルガオ的です。花が閉じると蕚は紫色になって肥大し「風船」のようになります。
フウセンアサガオの根はインドや中国で下剤として用いられます。アサガオも古来薬草として栽培され現在も種子を「牽牛子」として下剤に用いますから、両者とも似たような成分を含むのだと思います。このように取り扱いに注意の必要なフウセンアサガオですが、別添3に記載されているのは「オペルクリア・タルペタの葉」で、茎とともに食用されることが知られています。多量に食べない限り危険はなさそうです。例えば同じヒルガオ科のヨウサイ(Ipomoea aquatica Forssk.)の若い茎葉は「空心菜」の商品名で野菜として市販されています。フウセンアサガオの葉も似たような風味なのかもしれません。