ムユウジュはインドからミャンマーに自生し東南アジア各地で栽培されるジャケツイバラ科(APG分類ではマメ科)の高木です。マーヤ夫人が庭園のこの木の花を取ろうと右手を伸ばした際に右脇の下から釈迦が生まれたとされることから、仏教の三大聖樹の一つとして有名です。またこのように陣痛の苦しみなしに釈迦が生まれたことにちなんで「無憂樹」、梵名「Asoca」、英名で「Sorrowless Tree」といいます。仏教の三大聖樹といえば他のインドボダイジュ(クワ科)とサラノキ(フタバガキ科)は、日本での栽培が難しいので古くからそれぞれボダイジュ(旧シナノキ科、APG分類ではアオイ科)とナツツバキ(ツバキ科)が代用され寺院に植えられてきましたが、ムユウジュにはこのような代わりの木がありません。どういった理由があるのか、単にムユウジュに似た形の木が日本にないためなのか、ご存じの方がありましたらお知らせください。
ムユウジュは常緑で萌芽時には若葉が赤紫色になります。1つの葉は長さ50cmほどの羽状複葉で、小葉の長さは20~30cmもあるので1小葉がそれだけで1枚の葉のように見えます。花は新梢の葉腋に散房花序をつけます。花弁はなく、4弁で目立つのは萼です。萼の色は開花中に変わり、はじめは黄橙色でだんだん橙色になり、萎む前にはくすんだ緋色になります。雄しべは8本、雌しべは1本です。今回はじめて開花しましたが、近隣の植物園では3~4月に咲くのに比べて多少遅くなりました。室温がやや低いためかそれとも初開花なので遅くなったのか、来年の開花時期でわかることでしょう。今回開花したのは以前紹介した屋外の株とは兄弟で、鑑賞温室に植えたものです。屋外の株は今年の寒さにも耐えているはずですが、6月頃に芽が出てくるまではわかりません。
このように美しい花をつけるムユウジュは鑑賞目的に各地で栽培される他、材が堅く建築材や家具材としても利用されます。また、ミャンマーでは樹皮を月経過多に用い、中国でも婦人病に用います。