BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

ヒシ(ヒシ科)

Trapa japonica Flerow

ヒシ


<果実を滋養強壮に、また解熱薬として用いる。>

用水路やため池、湖沼などの水面に繁茂して、びっしり覆っているのをよく見かけることの多いヒシ(Trapa japonica)は、北海道から九州まで日本全国、朝鮮半島、中国、ウスリー、台湾と広く分布する水生植物ですが、一年草です。
水深2mくらいまでの水域に生えて、水底から水面まで長い茎を伸ばします。水面には、幅の広いひし形あるいは三角形の葉がロゼット状に広がり、たくさん繁殖するので水面近くを覆い尽くすほどになります。
葉は、上部に荒い鋸歯があって、長さ2~5cm、幅2~8cmほどで、葉柄が膨らんで空気をためるので、ロゼット全体の浮きの役割をしています。このような浮きを持つ現象はホテイアオイでも見られますが、こちらの場合は全草が水面に浮いていて、水底とはつながっていません。
夏には各ロゼットに1個あるいは2個、写真のような白い花をつけますが1日花です。1本の雌しべの周りに4本の雄しべが出て、花弁と萼片はそれぞれ4枚持っています。花が終わると水中にもぐって結実しますが、偏平の逆三角形で、2本の鋭いとげのある果実をつけます。このとげは萼片のうち内側の2枚が変化したもので、果実全体の幅は3~5cmくらいの大きさになります。
果実は秋には熟して黒くなりますが、この大きな果実が1種子に相当し、大部分は1枚の子葉からできています。
果実は、茹でてこの子葉部を食べることが出来ます。子葉部はでんぷんが50%、タンパク質が20%も含まれていて滋養強壮の効能もある一方、民間薬としては、健胃、解熱、解毒剤として、酒毒、胎毒、解熱などに用いられてきました。成分としては、でんぷん、タンパク質のほかにβシトステロールなどの植物ステロール類やタンニン類などが知られています。
ヒシの果実は繁用生薬の一つともみなされて日本薬局方外生薬規格2012では「ヒシノミ」として「本品はヒシTrapa japonica Flerov, ヒメビシTrapa insisa Siebold et Zuccarini又はメビシTrapa japonica Flerov var. rubeola Ohwi (Trapaceae) の果実である.」と近縁の同属2種の果実とともに定義されて医薬品としての規格が定められています。
また、このほかにも中国やインドに分布して日本にも導入されているトウビシT. bispinosa というヒシがありますが、こちらの方はとげが2本で幅5~7.5cmと大型の果実をつけます。特に中国栽培のものは食べやすいように大型に品種改良されたと考えられています。