毎年初夏(4月中旬頃~6月頃)の朝、当館の入り口の門を通るとき、なんともいえない甘い香りが漂ってくる。その香りのもとは、門から20mほど奥まったところに植えられている「トウオガタマ」の花である。
この植物は英名で”Banana shrub”とか”banana tree”、”Banana magnolia”と呼ばれている。花の香りが、バナナの甘いにおいに似ているところから、このような名前がつけられたのだと思う。花の色も、バナナの色に似ている。
この樹の開花期間は長いが、各々の花の開花日数は1~2日で短い。花は黄白色で、内側に紫紅色のボカシがある。花の大きさは径2~2.5cmほどである。花被片は6枚で、その長さは2~2.5cmである。オガタマノキ属植物(Michelia L. ※)の多くの種は、花被片が9~21枚と多いが、トウオガタマは少なく、6枚しかない。
花は、完全には開かず、半開きの状態のままである。このような花の開花状態が、含み笑いしているように見えるのであろうか。この植物を中国では「含笑花」あるいは「含笑樹」と呼んでいる。
宋の李綱の「含笑花の賦」に、「南方花木の美なるもの含笑に若くはなし」とある。李綱にとって、漂ってくる甘い香りとともに、淡い黄色の可憐な花が、この上なく魅惑的に思えたのであろう。
花は、そこから芳香油を精製し、香料として用いられる。また中国では、花を生薬「含笑」と呼び、薬用に用いられる。花が満開のときの晴の朝、花を採取し、風乾するか、低温で加熱乾燥したものを、消化不良や腹部膨満、鼻炎などに用いる。
花弁は、花茶にして利用される。また、台湾の婦人は、この花を黒髪の上に挿して飾りにする。黒髪に挿された淡い黄色の花は、かぐわしい香りを漂わせながら、さぞ美しく映えることであろう。
果実は稀にしか結実しない。この植物は、別名で「カラタネオガタマ」と呼ばれている。「実の着かないオガタマ」という意味から、このような名前がつけられたのだと思う。
トウオガタマは、中国南部原産の常緑の低木で、高さは2~3mである。和名の「トウオガタマ(唐招魂)」は、日本に自生する「オガタマノキ(招魂の木)」(Michelia compressa = Magnolia compressa)と区別して「中国のオガタマノキ」という意味から、このような名前がつけられたのだと思う。
この樹の葉は長楕円形で先端がとがり、長さ7~10cm、幅3~4cmで、光沢のある革質である。葉柄は長さ2~5cmである。耐寒性はやや弱いが、枝も葉もよく繁り、開花期が長く、花がよい香りを放つことから、庭園樹や生け垣などによく使われる。
(「プランタ」研成社発行より)
(※註:掲載当時のまま。現在はモクレン属Magnoliaにまとめられています)