BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

コブナグサ(イネ科)

Arthraxon hispidus (Thunb.) Makino

コブナグサ

コブナグサは日本~熱帯アジアに広く分布する1年草です。日本では田の畔や野原に普通にあるそうですが、周辺のそのような場所では見たことがありません。和名は「小鮒草」で、葉の形に因みます。

コブナグサの穂は、数個が掌状に集まります。小穂(穂の1つ1つの粒)は非常に小さく長さ3㎜くらいです。『改訂新版 日本の野生植物』によれば、無柄小穂と有柄小穂があります。無柄小穂は両性です。有柄小穂は退化して短柄のみになるか、まれに雄性の小穂となるそうです。今回探した中では無柄小穂だけで、有柄小穂の短柄は見つかりませんでした。小穂の中の様子も興味深いのですが、あまりに小さすぎて手持ちの器具では分解することができませんでした。小穂1つにつき、2つの葯と1つの雌しべが見えています。

コブナグサの茎葉は黄色の染料として知られ、ミョウバンで媒染すると鮮やかな黄色に染めることができます。伊豆八丈島の黄八丈は、コブナグサを椿の灰汁で媒染したものです。伊豆八丈島では栽培化されて、野生のコブナグサと区別してカリヤスと呼ばれます。このコブナグサの品種のカリヤスは、ススキ属のカリヤスMiscanthus tinctorius (Steud.) Hack.と混同しないように注意が必要です。

当館のコブナグサは、元は八丈島の採集品を譲られたものに由来しますが、栽培区画では絶えてしまい別の場所で雑草化して残っていたものです。特に種まきが難しく、春にポットに播いても生えてこないことが多いのです。休眠打破のための冷蔵庫処理が必要なのかもしれません。このため園内各地に放任状態で維持しています。八丈島由来とはいいながらも、品種のカリヤスではなく野生種ではないかと考えられますが、採集時の情報が残っていないので良くわかりません。
コブナグサ染め (綿ハンカチに粉ミルクで前処理後に染色。ミョウバン媒染)