BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

アケビモドキ (アケビカズラ)(キョウチクトウ科)

Dischidia rafflesiana Wall.

アケビモドキ (アケビカズラ)

植物の話あれこれ 24
水筒持参で生活する「アケビモドキ」

植物は、いろいろな知恵をもって生活している。水は、植物が生活するためになくてはならないものである。この植物は、たとえ地下からの水の供給が途絶えたとしても、また雨がしばらく降らなくても、生活することには困らない。水筒をかついで生きているからである。

この植物の葉には2つのタイプがある。すなわち、通常の形をした葉とアケビの果実を思わせるような袋状の葉である。しかし、実は、この袋状の葉も、もとは、通常の形をした葉であったのである。

この植物は、葉の発生の初期には、上の写真で見られるように、直径1cm程の丸くて、やや肉厚の葉を着ける。その後、葉の生長にともない葉身が膨らみ、葉は、やがて、長さ5cmくらいのアケビの実に似た袋状の形になる。

袋のなかは中空で、基部には穴が開いている。その穴から、雨水や落ち葉くずなどが袋の中に入り、それらを貯えている。そこに、節から出た根がその穴から進入している。そして、その根から生活に必要な水や、養分を吸収しているのである。

また、この袋状の葉は、葉としては、異質な形をしているが葉であることには変わりないから、葉の機能である光合成や呼吸作用も営んでいる。従って、この葉は、太陽光から受けたエネルギーを、植物体に供給する役目もちゃんと果 たしている。

当館では、この植物を温室の中で栽植しているので、まだ見たことはないが、自生地では、アリが、袋状の葉の中に、土を運び込み巣をつくっているとのことである。アリが住みつくようになると、多量 のアリの排泄物や分泌物が、貯えている水に溶出されてくる。これは、この植物の生育にとって貴重な栄養素になっているはずである。

アリが袋の中で巣を作っているような場合、この植物のつるに、うっかり手をかけたりすると、無数のアリの攻撃を受けることになる。アケビモドキは、アリに住居を提供して、自分の身を守らせているのである。このアリは、また、この植物の受粉の助けをもしているとのことである。このように、この植物がもつ生存のためのさまざまな巧妙な知恵にあらためて驚嘆する。

この植物は樹木の幹をはいあがるツル性の植物で、インド東部からマレーシア、オーストラリアまでの地域に広く分布している。タイや、マレーシアでは、年中スコールが降る熱帯多雨林にも、また、雨季と乾季が明瞭な熱帯モンスーン地帯の落葉樹林にも生育しているということである。

学名(種小名)の “rafflesiana” は、イギリスの植民地経営者で博物学者であるラッフルズ卿 (Sir Thomas Stamford Raffles,1781-1826)に因んで命名されたと言われている。彼はシンガポール島をジョホール王国から獲得し、ここを自由港として経営したことでも知られている。 本植物は、独語名で”Urnenphlanze”と呼ばれている。”Urne” は「壺」という意味があることから、袋状の葉に因んで名づけられたものと思われる。

本植物の袋状の葉の中に生育している根には、咳を治す作用があると言われている。熱帯アジアでは「キンマ」の葉に、「ビンロウ」の実を包んで、チューインガムのように噛む風習がある。これに、この植物の根を混ぜ合わせて噛むと咳が治るそうである。また、根の代わりに、つる性の茎を用いても同様の効果 があるということである。

(「プランタ」研成社発行より)