熱帯アメリカ、西インド諸島原産。コロンブスの「新大陸発見」以降、染料植物として他の熱帯地方に広がり、現在では観賞用としても世界各地の熱帯・亜熱帯で広く栽培されています。
高さ10mまでの常緑小高木で、淡紅色で径5cmにもなる美しい花をつけます。花弁は5枚で多数の雄しべがあり、大きな梅の花のように見えます。果 実は、長さ2から4cmの卵形で、赤褐色の柔らかな毛に覆われています。熱帯では写真のように美しい紅色の果 実を見ることができますが、温室では光線不足のせいか茶色の果実しかできません。(果実の写真はタイにて撮影したものです。)
果実は熟すと二つに割れ、その中には緋紅色の柔らかい種皮に包まれた20個ほどの種子がはいっています。このパルプ質の種皮に赤色のカロチノイド系色素ビクシン(Bixin)が含まれ、アナットー(Annatto)色素として利用されています。19世紀に赤色合成染料コンゴレッドが普及するまでは、羊毛や絹を染めるのに用いられていました。現在では食用色素としてバター、マーガリンやチーズの着色に利用されています。
アメリカ大陸の先住民は戦闘や祭りの時に、この色素から作った赤や黄色の絵の具で体を彩 色していました。今でも口紅などの化粧品に使われることもあります。11月に紹介したスオウもそうですが、赤い色と人間との関係は深いようです。
ベニノキは種皮だけではなく種子からも色素がとれます。また、根を肉の香り付けに用いると、味や色がサフランを使ったようになるといわれています。その他、種皮や葉は薬用にされますし、樹皮からは上質の繊維がとれます。樹形や花も美しいベニノキは、熱帯の多目的植物の一つです。