ベルノキはインドが原産で熱帯アジアに広く分布するミカン科の落葉性中高木です。単型属で、属名の「Aegle」はギリシャ神話にある黄金のリンゴを守護するヘスペリデスのニンフの一人の名前で、種形容語の「marmelos」はこの植物の古い呼び名に由来します。種形容語や英語で「Indian quince (インドのマルメロ)」と呼ぶことから別名を「マルメロ」ともいいますが、本物のマルメロ(バラ科のCydonia oblonga)とは無関係です。和名の「ベル」は現在のインドやマライでの呼び方に由来します。
ベルノキの樹皮はコルク質に富み柔らかく淡い褐色です。葉は三出複葉になります。野生種の枝にはユズやスダチのような刺があり、栽培種には普通刺はありません。ベルノキの花序は円錐花序で枝の先の方に腋生します。花弁は4、5枚あり外側が緑色で内側が緑白色、両性花で雄蕊は多数です。花には非常に良い香りがあるので、これが咲いている時は毎朝の見回りが楽しみになります。
ベルノキの果実は熟すと黄緑色になり直径6~10cmの卵形または楕円形です。果実の殻は大変固く、中には黄色の果肉があり、その中にはゼラチン質に包まれた多数の種子が放射状に並んで入っています。タイでは殻と種子を除き、薄く切って乾かしたものが売られています。これを煮て砂糖を加えてジュースにして飲みます。またベルノキは薬用として知られており、果実にはマルメロシンを含み瀉下、利尿作用があります。未熟果実は利尿、収斂、胃アトニー、赤痢、健胃に、成熟果実は消化促進、緩下、肝障害に用いられます。葉や根も薬用となります。他にも、ベルノキはヒンズー教の人々にとって聖木で、シバ神とその配偶者のパールバティがこの果実を好んだとされ、他にも多くの神話に登場することから、神への捧げものに供されます。当館ではまだ結実しないことから自家不和合の可能性が高いのですが、一つくらい間違って結実しないものかと思いながら受粉を続けています。
市販のベルノキの果実 (タイで撮影)