ピネリア・ペダティセクタは中国に広く分布する小形の多年草です。日本に分布するカラスビシャク(半夏)の仲間です。中国名は「虎掌」です。この名前の由来は一説によると、大きな球茎のまわりに小球茎が螺旋状に付着するために、塊茎を生薬に加工したものが虎の掌のような形状に見えるからだそうです。また「掌叶(葉)半夏」とも呼び、日本でもショウヨウハンゲと呼ぶことがあります。この名前の通り、葉は細かく掌状または鳥足状に分かれており、葉だけを見るとテンナンショウ属(マムシグサやウラシマソウの仲間)に、間違えられることがあります。テンナンショウ属とは、一つの塊茎から葉が複数出てくることや、花の形から区別できます。
ピネリア・ペダティセクタの花序は株の基部から伸びます。長さは20~30cmくらいです。仏炎苞の舷部(先端の蓋のようになるところ)はカラスビシャクやオオハンゲのように曲がらずにまっすぐで、付属体もまっすぐに伸びます。仏炎苞の基部を開くと、付属体の付け根に雌花が、その上部に雄花があるのがわかります。
ピネリア・ペダティセクタは、カラスビシャクと異なり葉身の付け根や葉柄の途中にむかごを着けません。その代わり、非常に良く結実します。結実した花序は倒れて鉢の縁から飛び出し、完熟すると鉢の外へ種子をばらまきます。こぼれた種子も良く発芽するので、放っておくとすぐに、あちこちから勝手に生えて広がり雑草化してしまいます。栽培にあたっては、咲いた後の花序は切り取って種子を作らせないことや、植え替えで出た廃培養土に小塊茎を混ぜないことが肝要です。
日本のカラスビシャクは局方生薬「ハンゲ(半夏)」として塊茎を鎮静、鎮咳、去痰などの目的で様々な漢方薬に配合されますが、ピネリア・ペダティセクタも中国東部(江蘇、河北、河南、山西など)ではハンゲと同様に利用します。また中国ではヘビの咬傷や腫脹に外用します。また、「テンナンショウ(天南星。テンナンショウ属数種の塊茎で、鎮静、去痰などに用いる)」の代用にもなります。このような訳で、中国ではピネリア・ペダティセクタの塊茎は生薬として流通しており、生薬「ハンゲ」、「テンナンショウ」の中にまれに混入することがあります。しかし、日本では本植物は「ハンゲ」や「テンナンショウ」の代用としては認められていません。日本薬局方外生薬規格1989(および2005増補版)の「テンナンショウ」の基原の項には、その他同属植物としてArisaema pedatisecta Schottとして本植物が認められていましたが、Pinellia属の間違いであるとわかったために、日本薬局方外生薬規格2012では削除されています。