シャクチリソバは本州から九州に分布するタデ科の多年生草本です。この植物はもともとヒマラヤから中国南西部に分布していた帰化植物です。中国では金蕎麦(きんきょうばく)とよんで、太い塊茎は薬用で解毒剤などとして使用していました。昭和初期に日本に導入され、薬草園などで栽培されました。和名は本草網目という本の中の赤地利(しゃくちり)という漢名にならって、植物学者の牧野富太郎博士が 1933 年に名づけました。ところが、 1960 年代に薬草園などから逃げ出し、野生化して広がった植物が、田んぼのあぜ道や街中でも見られるようになりました。
シャクチリソバはそば粉の原料にする、日本人にもなじみのソバ( Fagopyrum esculentum )の仲間です。ソバの仲間( Fagopyrum 属 )は本来野生では日本に分布していませんでした。日本に分布する「ソバ」と名のつく植物はいくつありますが、水辺に生えているミゾソバ( Persicaria thunbergii )などは、種子の形がソバに似ているだけで全く違う属です。
シャクチリソバの種子もソバ同様に食べることができます。しかし、不味いようです。ニガソバという別名を持つダッタンソバ( F. tataricum )も不味いことで知られていますが、最近ではこの植物がルチンという物質を多く含み、血圧降下作用があるということで注目されています。シャクチリソバも同様にルチンを含みます。皆さんのちかくでもこの「薬草園から逃げ出したソバ」を見かけるかもしれません。ちなみに、このシャクチリソバの若い葉は野菜としても食べられるようで、「野菜ソバ」という名もついています。