チョコレートやカカオの原料になるのでおなじみのカカオノキ(Theobroma cacao)は、熱帯・中央アメリカ原産のアオギリ科の常緑小高木です。樹幹から小さな花が房のように群がって着くのが特徴で、その小さな花がうまく結実して成長しきると、長さ20cmで直径は10cmくらいのフットボール状の果実ができます。200~300花に1花くらいの割り合いで結実にいたるとされて、果実が熟すと黄色から赤味を帯びます。内部は5室に分かれていて、長さ2.5cmで幅1.5cmほどの平たいコイン状の種子が5列に20~40個ほど詰まっています。この種子を発酵させると独特の香気を帯び、これを乾燥させたものがカカオ豆で、30%もの油脂が含まれています。このカカオ豆を焙煎して種皮を除き、粉末にして砂糖、ミルクや香料を加えて固めたものがチョコレートで、粉末を圧搾して脂肪を取り去ったものがココアになります。また圧搾して得られた脂肪はカカオ脂として利用されます。
カカオ豆には微量のカフェインに加えて2~3%のテオブロミンなどのアルカロイドが含まれているので、ココアは利尿剤や興奮性飲料としても用いられてきました。また、カカオ脂は、常温では固体ですが、ちょうど体温くらいの温度でとけるので、坐薬や化粧料の基剤として使用されます。カカオ脂は日本薬局方にも収載されている立派な医薬品です。成長すれば、樹高が10mにもなる樹木で、樹皮は暗緑色で厚く、枝を水平にのばします。葉は互生し、長楕円形で長さ20~30cmくらいになり、先は尖ります。花は小さく1花は径1~2cmほどしかありません。萼は淡桃色、花弁は淡黄色を帯び、1~2cmほどの長さの柄の先に開花します。当館では観賞用温室に、同じくらいの大きさの2個体を植栽していますが、1本はほぼ通年開花結実が見られるのに対し、他方の一本はほとんど花がつかず、個体によってかなり育ち方や繁殖に個性があるように感じます。