植物の話あれこれ 27
頭脳を明晰にする「ローズマリー」
ヨーロッパでは 古代ギリシャ時代から、このローズマリーが、頭脳を明晰にし、記憶力を増すはたらきがあると信じられてきた。古代ギリシャの学徒たちは記憶力を高めるために、この小枝を髪にさしたと伝えられている。
シェークスピアの「ハムレット」の中では、オフィーリアが、ローズマリーを持って、「忘れないでね」と語る場面がある。これは、この植物が「不変の愛と記憶」の象徴とされてきたことによると思われる。
ローズマリーは地中海沿岸地域原産の常緑低木で、代表的な芳香性植物である。和名は「マンネンロウ」と呼ばれている。高さは60cm~1mで、葉は、長さ3cmの細い革質で葉の裏面は綿状の毛が密生し灰色にみえる。4~5月頃に葉腋に淡い紫色の香りのよい花を多数つける。この花からとられた蜂蜜の品質は、高く評価されている。葉には甘い香りがあり「迷迭香(メイテツコウ)」と呼ばれる香油がとられる。この香油から石鹸や香水がつくられる。このハーブを含む化粧品に”Queen of Hungary’s water”(ハンガリー王妃の水)が知られている。
この植物は、薬用として使うために、中世紀の修道院では、盛んに栽培されていた。その花をリウマチや神経痛などの薬に、花や葉の煎汁を風邪や熱病の薬として用いられてきた。
ヨーロッパでは、現在も薬用や香辛料として広く使われている。すなわち葉を煎じ、ローズマリー茶(Rosmary tea)として頭痛薬に用いる。ローズマリーワイン(Rosmary wine)は、ベルモットとして用いられる。若い新鮮な葉や茎や花は、そのままシチューやソーセージに入れられる。
日影で風乾した葉は甘い芳香と刺激的なほろ苦さをもつ。この特徴を利用して、肉の臭み消しのために、肉料理にはよく用いられる。各種スープ、シチューやバーベキューソースに入れたり、ポテトやカリフワーなどのゆで野菜にふりかけたりする。この葉は、また口臭除去の効果もあるといわれている。
学名(かつての属名)”Rosmarinus”はラテン語ros(露)とmarinus(=maritinus 海岸の)に由来し、「海の水滴」という意味である。海岸に面した崖などに多く繁茂していたことにより、このような名がつけられたと想像される。一方、これは、「聖母マリアのバラ」という意味であるとする説もある。聖母マリアとこの植物の関係についてまつわる伝承が少なくない。スペインに、次のような伝説がある。この木の花はもとは白かったが、聖母がこれに上衣を投げかけて以来、その上衣と同じ青色に変わったということである。また、この木はエジプトヘ逃れるマリアら聖家族をかくまったとも言い伝えられている。
ローズマリーは、古くから弔いの木とされてきた。中世のイギリスやフランスでは、死者に、この木を持たせた。また、葬儀には、会葬者は、この植物の小枝を持って参列し、墓穴に納めた棺の上へ、これを投げ込んだ。これは、この木の芳香が、疫病の予防や消毒に効果があると考えられていたことと、この植物が常緑であるということから、魂の不滅の象徴とされてきたことによるものである。
この木は、また祝いごとにも使われた。結婚式には、これに香水をかけ、金粉をまぶし、色とりどりのリボンをつるして、祝いの席を飾る。この植物の花言葉に「貞節」「誠実」「変わらぬ 愛」などが、あるが、このことの故に、このような折りに、この木が使われたのだと思われる。 この木は、古くから空気の浄化や殺菌に有効であると思われてきた。そして、土間にまいたり、虫よけに用いたりされる。今でも、フランスの病院では、この目的のためにこの木が焼かれているということである。この木は、古代ギリシャの時代から魔女や悪魔除けに使われたと、伝えられている。このことから単に殺菌効果を期待するだけでなく悪魔除けをも意図して今も使われるのだと思われる。
(「プランタ」研成社発行より)