ヤシャビシャクは日本の深山に見られる落葉小低木で、東北地方から四国地方に点在して分布しています。中国大陸西部にも分布しているといわれていますが、個体数は非常に少なく、見かけるのもまれな植物です。 4~5 月ごろに白い花を咲かせ、緑色に熟する毛の生えた楕円形の果実をつけます。この果実の形から和名の「夜叉柄杓」がついたとされています。ここでいう「柄杓」とは丸いコップに柄のついた物でなく、「ひょうたん」のことです。昔はひょうたんの果実を「ひさご」とよんで、これを半分に割った物で水を汲んでいました。「ひしゃく」は「ひさご」が転じた言葉です。
ヤシャビシャクは少し変わった場所に生えています。ブナやミズナラなどの樹上や腐葉土やミズゴケのついた岩の上に生えます。大木の分かれた幹の間や空洞の落ち葉などが溜まったところに根を下ろし、樹上を這うように生育し、年が経てば高さ 1m ぐらいまで成長します。頭上に生えて花を咲かせることから「天の梅」という別名もあります。この植物がなぜ樹の上を好むかはわかりませんが、写真のように鉢でも育てることができます。地面では他の植物との競争に負けてしまうからかもしれません。
属名の Ribes は「酸味」という言葉に由来し、スグリとよばれている植物が仲間です。クロフサスグリ( Ribes nigrum )がカシスとよばれ、酸っぱい果実がリキュールや菓子に使われているといえばわかる方も多いでしょう。このヤシャビシャクの果実も食べることができます。しかし、がんばって樹の上を見ながら山を分け入っても、自生のヤシャビシャクに出会えるのはまれなことです。山でこの植物の果実を味わうことができたら非常に幸運なのかもしれません。