BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

オトメアオイ(ウマノスズクサ科)

Asarum savatieri Franch.

オトメアオイ

冬の寒い季節でも、館内をよく探すと変わった花を見つけることができるもので、今月はカンアオイの仲間を紹介します。オトメアオイは箱根および伊豆半島に分布する小形の草本です。種形容語の「savatieri」はフランスの植物学者ポール・サバティエ (Paul Amédée Ludovic Savatier、1830年-1891年) に因むものです。サバティエはこの植物の命名者でもあるアドリアン・フランシェ (Adrien René Franchet、1834年-1900年) と共に「日本植物目録 (Enumeratio Plantarum in Japonia Sponte Crescentium、1875年-1879年)」を発表しました。日本の植物の学名でよく見かける命名者「Franch. et Sav.」は彼らのことです。また新興住宅地で見かける外来植物、非常に小さな花でイヌノフグリに似ているがイヌノフグリよりも少し大きく毛深いフラサバソウ(Veronica hederifolia L.)のこの奇妙な和名は、「フラ」ンシェと「サバ」ティエに因みます。

日本のカンアオイの仲間の花は土や落ち葉に埋まるために、また花色が黒~褐色のものが多いため地味な花が多いものですが、このオトメアオイは淡緑色~明褐色となって鉢の中でも目立って可愛らしいものです。オトメアオイの3裂した花弁のようなものは萼片で、花弁はなくなっています。ウマノスズクサ科の植物はこの筒状の萼片が目立つので合弁花のようですが、「日本の野生植物(平凡社)」を見てもわかるように離弁花となります。花を縦に割ってみると中心に6個の花柱、その根元に12個の雄蕊があります。萼の内側には格子状の襞が見られます。花柱の形は種によって様々で、オトメアオイのように先が尖るもの、タマノカンアオイのように長靴をさかさにしたような形のもの、短い棍棒状のものなどがあります。花には写真のように、たまたま蚊のような小さな昆虫が入っていましたが、この昆虫が花粉の媒介をするのかはわかりません。「植物の世界(朝日新聞社)」によればタマノカンアオイではキノコバエが媒介者であるということです。

ウマノスズクサ科には精油を含むものが多いため、植物を傷付けたり根を掘ったりすると良い香りがするものがあります。今回の撮影でも周囲にふんわりと良い香りが漂い、寒い中でも心地よく撮影することができました。中国ではカンアオイの仲間の数種を薬用とします。日本ではウスバサイシンとケイリンサイシンの根及び根茎を局方生薬「サイシン」として、鎮咳、去痰、解熱、鎮痛などに用います。

オトメアオイの花 (断面)

タマノカンアオイの花 (断面)