植物の話あれこれ 26
夕化粧と呼ばれる「オシロイバナ」
この植物の黒くて堅い果実をつぶすと、白い粉が出てくる。子供たちは、これを、「オシロイ(白粉)」と称して遊ぶ。江戸時代には、この白い粉を「おしろい」の代用に使われたということである。和名は、このことに因む。
花は筒状の萼が発達し、花冠状となり、色が着いてアサガオのように開く。花は、夏から秋にかけて咲き、よい香りを放つ。花の色は、紅、ピンク、白、黄などさまざまである。
花は、夕方4時頃から咲きだし、翌朝にはしぼむ。このことから、イギリスでは、Four-o’clock(午後4時)と呼ばれている。
オシロイバナは、また、別名で「ユウゲショウ(夕化粧)」と呼ばれる。これは、夕方に美しい花が咲くさまと、夕方にオシロイを塗って美しく化粧をして出かける夜の女性の姿を重ね合わせて名づけられたものと思われる。
オシロイバナは、熱帯アメリカ(メキシコ)原産の多年草で、花が美しいので各地で観賞用に栽培されている。根は、太い直根で、熱帯地域で植えると、根が肥大して、重さ20kgほどにもなるということである。茎も緑色で太く、さかんに分枝して拡がる。草丈は、1mくらいになる。
花が夜咲性であるので、庭や花壇に夜間照明をしたり、レストランや、ホテルの中庭などに植えて、夜、観賞するのに用いられる。
中国では、開花時刻に因み「吃飯花」と呼ばれている。
この植物は、中国名で「紫茉莉」と呼ばれる。花の形が、マツリカ(茉莉花)に似るからだろうか。学名(属名)の”Mirabilis”は「不思議な」「素敵な」「驚くべき」を意味するラテン語である。植物分類学者リンネは、この種を命名するときに、色鮮やかな美しい花に感銘して、このような名をつけたものと思われる。
英名で、”Marvel of Peru”(ペルーの驚異)とも呼ばれている。花の美しさを形容して名づけられたものと思われる。
種名の”jalap”は、本植物の原産地、メキシコの都市名ヤラッパ(Jalapa)に由来すると言われている。ヤラッパ地方にこの植物が多く繁茂していたのかもしれない。また、一説によると、本植物の根がメキシコ原産の植物Ipomoea purgaの根からつくられる下剤”Jalap”(ヤラッパ根)の代用に用いられることによるともいわれている。
ブラジルでは、この植物の全草を腹痛や下痢に、また根を下痢や水腫に民間薬として利用する。糖尿病には、根を茶剤や煎剤として服用される。
中国では、根を、生薬「紫茉莉根(シマツリコン)」と呼ばれ、この根を煎じた汁を水腫の薬とする。紫茉莉根は、また、利尿や関節炎にも利用される。葉は、切り傷や、たむしに用いられる。 根や種子には、アルカロイドのトリゴネリン(Trigonelline)が含まれているので、誤って食べると嘔吐や腹痛や下痢を起こす。
中国では、花の色素を、海草でつくる食品や菓子の着色に用いるということである。
(「プランタ」研成社発行より)