紀元1世紀に著された「ディオスコリデスの薬物誌」に、「アンミ」について、以下のように記載されている。すなわち、「アンミ(Ammi)は、よく知られた小さな種子で、クミンよりかなり小さく、味は、オリガヌム(Origanum)のようである。この種子の薬効は、暖め、焼きつけ、乾かす作用である。ブドウ酒とともに服用すれば、腹痛、排尿困難、毒獣に咬まれたときの治療によい。月経血も排出させる。ハチミツとともに外用すれば、皮下出血を治す。甘いブドウ酒やロジンとともに煩蒸すると、外陰部を浄化する・・・」と。
上の記事で「種子」とあるのは、実は、「果実」のことである。この記事に見られるように、この植物の果実は古くから薬用に用いられてきた。
果実は「アンミ実」あるいは「ケラ実」と呼ばれる。この植物は英名で”Khella”と呼ばれている。「ケラ実」の名前は、この英名に由来する。果実の外観は種子のようである。その大きさは上記の記載のように、非常に小さく、長さ約2mm、幅約1mmで、100個の平均重量は、60mgにすぎない。果実の外面は平滑で黄緑色から黄褐色で、背面に5条の肋線がある。ほとんど無臭で、わずかに苦い。
アンミ実は、エジプトで民間薬として、古くから腎臓病や輸尿管痙れんの鎮痙剤に用いられた。中世紀以後、ヨーロッバでは、利尿薬として用いられたり、腎臓結石や膀胱結石に用いられてきた。
果実には、冠状血管拡張作用、血圧降下作用、利尿作用、平滑筋弛緩作用などがあると言われている。このため狭心症や百日咳、気管支喘息などに血管拡張剤として用いられる。また腸や尿路の痙れん、月経困難症などに鎮座剤として使用される。
果実には、クロモン誘導体のケリン(Khellin)、ビスナギン(Visnagin)、ケロール(Khellol)などが2~4%、クマリン類のサミジン(Samidin)、ジヒドロサミジン(Dihydrosamidin)、ビスナジン(Visnadin)などが0.2~0.5%含まれている。このうち「ケリン」が、アンミ実の主要な薬効成分であると言われている。
ケリンは、血圧や、心機能に影響なく冠状血管を拡張し、冠血流を増加させる。また平滑筋に作用してこれを弛緩させる。このため狭心症や気管支喘息の治療などに有効である。
「アンミ」は地中海沿岸からペルシャ付近原産の1年生~多年生の草本である。食用や薬用に用いるために、世界の各地域で広く栽培されている。全株無毛で、草丈は、1~1.5mに達し、茎頂に大形の繖形花序をつける。花序は「ニンジン」(Daucus carota L.)に似る。アンミは、英名で、”Spanish carrot”(スペインのニンジン)とも呼ばれている。この花序の形に因んで名づけられたものと思う。花期は夏で小さな白い花をつける。下部の葉は三角形で、上部の葉は3~4回羽状に細裂し裂片は線状となる。「コスモス」の葉に似ている。アンミは別名で「イトバドクゼリモドキ」とも呼ばれている。草形が、コスモスのように細い葉をした「ドクゼリ」(Cicuta virosa L.)に似るところから、この名がつけられたのだと思う。
花序の花柄は、ツマヨウジ(爪楊枝)に利用される。エジプトでは、市場で売られている。芳香があるので好まれる。学名の”visnaga”はメキシコ移民の用語で、「爪楊枝」を意味する言葉である。このような用途に因んで名付けられたものと思われる。また、この植物を英名で、”Tooth-pick”(ツマヨウジ)とも呼ばれている。この名前も、このような用途に由来するものと思われる。
葉は、香料として用いられる。葉から採取された精油成分は、フルーティーで甘い香り放ち、心を落ち着かせ安心感を与えるとのことである。
アンミの近似種に「ドクゼリモドキ」(Ammi majus L.)がある。南部ヨーロッパ原産の1年草で、中部ヨーロッバから地中海沿岸、西アジアに分布する。中世のころから芳香のある果実を目的に栽培されてきた。英名で、”Bishop’s Weed”(甘い香料入りの暖めたブドウ酒のような香りを放つ雑草)と呼ばれている。果実は、アンミ同様、薬用に使われる。強壮薬や胃薬、利尿剤として用いられる。
(「プランタ」研成社発行より)