この植物の成熟果実は、「使君子」と呼ばれ、古くから薬用に使われてきた。特に、回虫や、蟯虫に対する駆虫薬として有名である。「使君子」には、「キスカル酸」(Quisqualic acid)と呼ばれる成分が含まれている。キスカル酸は、アミノ酸の1種で、使君子の駆虫作用の有効成分である。この成分は、使君子から初めて発見された成分である。このため原植物のシクンシの学名(属名)” Quisqualis”に基づいて、”Quisqualic acid”と命名された。
この植物の和名「シクンシ」は、生薬名の「使君子」に由来する。「使君子」の「使君」とは、「四方の国にさしつかわされる天子の使者」のことである。このことから、「使君子」は、「天子からつかわされた使者のような薬」、すなわち「天子が民の無病息災を願って賜った貴重な薬」と考えられ、このような名前がつけられたのだと思う。なお、「使君子」は、この植物の中国名にもなっている。このことから、和名「シクンシ」は、この植物の中国名に由来するとも考えられる。いずれにしても「この植物は、人々に大きな恵みをもたらすありがたい木」という意味で、このような名前がつけられたのだと思う。
「シクンシ」は、インド南部、ミャンマー~マレー半島、ニューギニア地域原産の常緑木本性つる植物である。この植物の学名(種小名)”indica”は、「インドの」という意味である。また、この植物は、英名で、”Rangoon creeper”と呼ばれている。「ミャンマー(ビルマ)の旧首都ラングーン(ヤンゴン)のつる植物」という意味である。このような名前からも、「シクンシ」は、インドやミャンマーが原産地であることがうかがえる。
「シクンシ」は、つる植物ではあるが、はじめは低木状で、後に、つる状となる。つるは丈夫で、8m以上に伸びることもある。また、他の植物によくからみつく。熱帯アジアに広く分布し、中国では、西南部の四川、広西、広東省などで栽培されている。日当たりのよい山の斜面や低木の茂み、水辺などに生える。花が美しく、熱帯では庭の花木としてよく植えられている。また、果実が駆虫剤や整腸剤など薬用として用いられるため、古くから各地で植えられている。日本でも、石垣島や西表島で植えられている。幹の下部は直立し、上方はつる状になる。葉は対生または部分的に互生し、葉柄は長さ1~2cmで、葉身は紙質でうすく、長さ7~14cmの楕円形である。葉柄の下部に関節があり、葉が落ちると残った葉柄の一部は刺状の突起となって残る。短い穂状の花序に多数の花がつく。花にはモモの果実のような芳香がある。花の大きさは径2~4cmで、花弁は5枚である。花には、一見、花柄のようにみえる長さ4~7cmの細長い管状の萼筒がある。このため、花が下向きに垂れる。花の色は、開きはじめは白色で、その後、ピンク~紅色に変化し、咲き分けているように見える。
学名(属名)”Quisqualis”は、ラテン語”quis”(誰;who)と、”qualis”(何;what)に由来する。この植物の花の色が、開花中に変化していくことに対する素朴な驚きにちなむといわれている。また、ラテン語”quisqualis”は、「どんなものか」という意味があり、この植物の同定の難しさから、このような名がつけられたという説もある。果実は、長さ2~3cmの紡錘形で、縦の稜が5本ある。熟すと、やや木化して暗褐色になる。果実の中には、種子が1個含まれている。「シクンシ」の成熟果実は、上述のように、生薬「使君子」と呼ばれ、薬用に使われる。秋に、果実を採取し、日干し乾燥して、これを用いる。果実には、駆虫作用のほか、腹の中のしこりを消す作用がある。このため、駆虫剤のほか、整腸剤や健胃薬として、消化不良や、腹痛などに使われる。シクンシ属植物(Quisqualis L.)は、16種が、アジア~アフリカの熱帯地域に分布している。薬用や観賞用として栽培されているのは、「シクンシ」1種だけでる。
シクンシ科植物(Combretaceae)では、「シクンシ」のほか、「モモタマナ」が有名である。モモタマナ”Terminalia catappa L.”の果実は、”Indian almond”(インドのアーモンド)とか、”Sea almond “(海のアーモンド)と呼ばれ食用にされる。硬い核の中に脂肪分に富んだ緑色の胚があり、アーモンドの風味がある。これを炒って食べる。果実に含まれている脂肪は、「カタッパ油」と呼ばれ、果実中に50~60%含まれている。モモタマナは、マレー半島原産といわれているが、熱帯各地に広く分布している。日本の沖縄や小笠原諸島にも自生している。材は、硬く、建築用材や家具に使われる。果実や樹皮には、タンニンが多く含まれており、染料の原料に用いられる。
(「プランタ」研成社発行より)