今から16年前(1986年)に種子で導入し、当館大温室で栽植してきた「パキラ」が、昨年の夏から開花し始め、果実も着くようになった。今年の夏には、径7cm、長さ10cm程の楕円球状の果実が、7個も着果した。果実は、初め緑色で、5本の条溝がある。その後、果皮は、しだいに厚くなり、硬く木質化してくる。果実が熟すと、この硬い果皮がひび割れし、5つの裂片に裂開する。そして、中から多数の種子がこぼれ落ちる。種子は、径2cmほどで、ゆがんだ栗状をしている。種皮は、茶色で、黄白色の縞模様のあるのが特徴である。パンヤ科の植物らしく、種子のまわりには、わずかに絹毛が生えている。
この種子は、「ギアナクリ」(Guiana chesnut)と呼ばれ、食用にされている。デンプン質に富み、炒って食べると、ヘーゼルナッツのような風味がある。「ギアナクリ」の「ギアナ」(Guiana)は、パキラの原産地である「ギアナ地方」を指す。ギアナは、南アメリカ北東部のベネズエラ南東部からブラジル北部、ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナにまたがる地域である。
「パキラ」は、喫茶店や、レストラン、ホテルのロビーなどに、鉢植えにしたものが、よく置かれている。この鉢植えにした「パキラ」を、誰もが一度や二度は見かけていると思う。しかし、それが「パキラ」であると気づいている人は少ない。この植物は、日陰でも生育状態がそれほど悪くならない。このことから、室内を装飾するグリーン・インテリアに、よく利用されている。また、日曜大工センターの園芸コーナーなどでは、この植物の幼木苗木を鉢仕立てにし、観葉植物として市販している。このように、「パキラ」の植物体には、目に触れる人は多いと思う。しかし、この植物の花や果実を見た人は少ないのではないかと思う。鉢植えの「パキラ」は、大きくても1.5~2mである。しかし、実際は高さ20mにもなる高木である。メキシコ南部からペルー、ブラジルなどに分布している。幹は、灰緑色で、葉は、5~9枚の小葉からなる掌状の複葉で、葉柄は長く、20~25cmである。花は、はじめ緑白色で、その後、黄白色になる。径20cmほどもある大きな花である。早朝に開花し、その後、花弁が反り返ってらせん状に曲がった状態になる。花には、芳香がある。写真に見られるように、白くて長い雄しべ多数ある。それらがフサフサと房状になって美しい。雄しべは200本以上もあるといわれている。これに対し、雌しべは1本だけしかない。受粉が終わると、200本の雄しべは、しおれて枯れてしまい、1本の雌しべだけが残る。
「パキラ」は、英名で、”Shaving-brush tree”と呼ばれている。パキラの花が、開花後しばらくすると花弁が反り返り、多数の雄しべが、花から突出して拡がり、房状になる。これが、ひげ剃り前に、泡立てた石けんを顔に塗るのに使う「ひげ剃りブラシ」(Shaving-brush)に似ているところから、このような名前で呼ばれるようになったのだと思う。この植物は、英名で”Provision tree”とも呼ばれている。”Provision”には、「(食料などを)備えたくわえること」という意味がある。当館のわずか高さ3mほどの木でも、かなりの数の種子が得られる。自生地の20mもある大木からは、一度に何十kgという大量の種子を収穫することができるのだと思う。これらの種子は、保存がきくので、原産地の人たちは、備蓄用食料として利用しているようである。「パキラ」は、原産地では、川岸などの湿ったところに生育している。
この植物の学名で、同種異名(Synonym)として、”Pachira macrocarpa Walp. “が記載されている。”macrocarpa”は、「大きな果実の」という意味である。当館では、長さ10cm程度の果実しかならないが、自生地では、大きなものでは、長さ30cmのものもあるとのことである。この植物は、英名で”Provision tree”とも呼ばれている。”Provision”には、「(食料などを)備えたくわえること」という意味がある。当館のわずか高さ3mほどの木でも、かなりの数の種子が得られるのであるから、自生地の20mもある大木からは、一度に何十kgという大量の種子を収穫することができるのだと思う。これらの種子は、保存がきくので、原産地の人たちは、備蓄用食料として利用しているようである。
Pachira属植物は、熱帯アメリカに分布し、現在24種が知られている。いずれも直径10~20cmの大輪の花で、多数の長い雄しべをもつ。雄しべが、花筒の中で合着していることが、パンヤ科植物の中での区別点とされている。属名”Pachira”は、ギアナにおけるこの植物の呼び名に由来する。
(「プランタ」研成社発行より)