マラッカノキはインド原産と推定され東南アジアから中国南部に掛けて広く分布する落葉亜高木です。従来はトウダイグサ科に分類されていましたが近年トウダイグサ科全般への理解が進み、APG分類体系ではミカンソウ科(Phyllanthaceae)に分類されるようになりました。和名の「マラッカ」はマレーシアの現地名で、かつてマレー半島にあったマラッカ王国(1402~1511年)の語源となったものです。伝説によれば、マラッカ王国建国の父であるスマトラのシュリーヴィジャヤ帝国の末裔パラメスラワがマレー半島に逃げのびてきてこの木の下に休んでいたところ、マメジカ(ウサギくらいの大きさの小形のシカ)が猟犬を蹴散らして退散させるところを目撃しました。パラメスラワはとうてい勝ち目のないような小動物でも勇猛に立ち向かえば活路を見いだせると悟り、自らの境遇にたとえて縁起の良いこの地を自分の王国にすることに決めて、この木の名を付けたのだといいます。このため、マラッカ王国ではマメジカとマラッカノキが国のシンボルになったそうです。マラッカノキは東南アジアの各地で利用されることから、一般にはインド名の「アムラ」や、インド名に由来する「庵摩勒(アンマロク)」、また中国名の「ユカン(油柑)」、「余甘子(ヨカンシ)」といった呼びかたの方がなじみ深いかもしれません。
マラッカノキは灰褐色で肉厚の樹皮をもちます。枝からはネムノキに似た羽状複葉が伸びているように見えますが、全体で一つの葉ではなく小さな葉のつく小枝です。ただし乾季(日本では冬)になるとこの小枝ごと落葉するので、やはり羽状複葉のような性質を持っています。マラッカノキの花は、春に伸びてくる小枝の葉の代わりに根元近くにつき花序のようになります。雌雄異花で、たくさんの雄花に対して、少数の雌花が花序の一番先端側につきます。花弁は6枚で、雄花には雄しべが、雌花には基部が膨らみ柱頭が3裂した雌しべがつきます。これまでは雄花だけしか咲きませんでしたが、今年に始めて雌花が咲きました。果実は球形で、野生のものは直径2cmくらい、栽培されるものは直径4、5cmにもなります。
マラッカノキの果実は強い渋みと酸味がありますが砂糖漬けにして食べられます。果実や葉に含まれるタンニンは皮なめしや染色に使われます。また乾燥した果実はインドでは頭を洗うシャンプー、衣服や体を洗う石鹸の代用として利用されます。さらに果実に大量のビタミンCが含まれることから最近では化粧品やサプリメント等に配合されるようになりました。またマラッカノキの果実は古くから薬用として知られ、インドでは強壮、血液浄化、解熱、利尿剤などとして使用されます。現在の中国ではあまり使用されませんが唐代には利用されていたと考えられ、日本にも正倉院薬物として伝わっており、種々薬帳の「菴麻羅」として現物が残されています。