エンゴサクは中国各地 (主に浙江省、河北省、山東省) で栽培される小形の多年草です。北日本に分布し山野草として栽培されるエゾエンゴサク (Corydalis fumariifolia Maxim. subsp. azurea Lidén et Zetterlund)や、当館の近隣の山に生息するジロボウエンゴサク (Corydalis decumbens (Thunb.) Pers.)と同様に2月頃に姿を現し、3~4月に開花、5月には地上部が枯れて姿を消してしまうスプリング・エフェメラル (Spring Ephemerals) の一種です。学名Corydalisはギリシア語のkorydalis (ヒバリ)に由来し、この属の花の距 (きょ) をヒバリの距 (けづめ) になぞらえたものです。種形容語yahusuoは中国名の延胡索 (yan hu suo) の読みそのままです。和名は、この中国名を音読みしたものです。科の分類はエングラー分類ではケシ科、このページで現在使用しているクロンキスト分類ではケマンソウ科ですが、APG分類 (APG III) では再びケシ科となっています。
エンゴサクは地中に直径1~2cmくらいの塊茎を備えます。塊茎から数本の茎を伸ばし、葉は互生し2回3出複葉となります。地中にある下位の葉は鱗片となり、鱗片の脇に生じた球芽が次世代の塊茎となります。葉が青い内に掘り起こすと、元の塊茎から伸びて、数珠繋ぎになった小塊茎を観察することができます。エンゴサクの花序は頂生して穂状花序になります。花弁は4枚で紅紫色。上部の花弁が後ろへ長く伸びて距となります。美しい花色はカタクリの桃色、キクザキイチゲの青色と共に早春の花壇を彩ってくれます。
エンゴサクの塊茎は生薬として知られます。第16改正日本薬局方第1追補のエンゴサクの項には「本品はCorydalis turtschaninovii Besser forma yanhusuo Y. H. Chou et C. C. Hsu (Papaveraceae)の塊茎を,通例,湯通ししたものである.」と規定されています。記載の学名Corydalis turtschaninovii f. yanhusuoは本種のsynonym (同種異名)です。生薬のエンゴサクにはアルカロイドのコリダリンやデヒドロコリダリンが含まれ、鎮痛、鎮痙作用や抗消化性潰瘍作用が知られています。婦人薬とみなされる漢方処方に用いられ、安中散、折衝飲などに配合されます。