植物の話あれこれ
カメムシ臭のする「コエンドロ」
この植物の葉は、カメムシかナンキンムシに似た強い臭いがする。中華料理では、この葉を「香菜」とよび、香味野菜として、スープや肉料理、麺類などいろいろな料理に多く使われる。タイ料理などにもよく使われている。日本では、その特異なにおいのためか、ほとんど利用されない。中華料理などを食べに行って、同席の人が、この葉を取り除いて食べている人を見かけたりする。筆者も当初は、この葉を口に含むと、口の中全体に拡がるこの強烈な臭いに不快感を覚えたこともある。しかし今は大好きな野菜の一つである。
中国やタイなど東南アジアの留学生が当館を見学に来てこれに出会うと、きまって感嘆の声をあげる。誰もが大好きなようだ。中には、寮の庭で栽培するのだといって、その株や種子を持ち帰る人もいる。勿論その日の夕食のために、この葉をみやげに持ち帰って行く。日本では、この香菜が、なかなか手に入らないようである。
「コエンドロ」は地中海沿岸地域原産の一年草または二年草で、草丈は50cm~1mで、葉は、セロリの葉に似ている。初夏に各枝先に、小さな白~ピンク色の花を着ける。果 実は、球形で直径3~5mmで夏~秋頃熟す。未熟の果実は葉と同様のカメムシのような不快な臭いがするが、完熟するとレモンとセージを混ぜたような特有の芳香を放つ。果実は、カレーやパン、ソーセージ、スープその他の料理の調味料として用いられる。
果実には、胃液分泌や胆汁分泌を促進する作用が知られており、中国では、消化不良、健胃、駆風、痔疾薬として用いられる。ヨーロッパでは、薬局方に指定されており、健胃、駆風、去痰薬として用いられる。
「コエンドロ」が薬用に使われた歴史は古い。「医学の父」ヒポクラテス(紀元前4~5世紀)は胸焼け防止や催眠薬になると述べている。また「千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)」では、強壮作用があると考えられていたのか、媚薬として用いられている。
英名では、”Coriander(コリアンダー)”とか”Chinese parsley”呼ばれている。
学名(属名)の”Coriandrum”は、ギリシャ語でナンキンムシ(南京虫)という意味の”koris”に由来するといわれている。上述のように、この植物がナンキンムシのような臭いを放つことから、この名が付けられたのであろう。
和名の「コエンドロ」は、ポルトガル語の「コエントロ(Coentro)」が訛って名付けられたといわれている。
(「プランタ」研成社発行より)