夏には欠かせない植物であるアサガオ(Ipomoea nil)は、熱帯アジア原産のヒルガオ科のつる性の一年生草本です。誰でも手軽に栽培できてお花が楽しめるので、夏休みの宿題に朝顔の観察日記を付けた事を思い出される方もあると思います。
様々な色の花を楽しめるばかりか、江戸時代から花の形や葉の形の変わった変化朝顔がたくさん作りだされ、今でも各地の朝顔市などで珍しい種類として紹介されたりしています。また明治になってからは大輪朝顔が作り出され盛んに栽培されて、日本の伝統園芸植物としても代表的な植物といえると思います。
ところが、日本には奈良時代に薬種として遣唐使によってもたらされたと言われています。
漢方では、アサガオの種子を牽牛子(ケンゴシ)とよんで、緩下剤として利用されます。『名医別録』という古い中国の薬物書にも収録されている薬物で、腸粘膜、下腹部を充血させ、蠕動運動を亢進させて寫下作用をおこします。また利尿、殺虫効果もあって、下半身の水腫や尿閉にも利用されることもあります。
成分としては、強い寫下作用を持つ樹脂配糖体のファルビチンが含まれるほか、脂肪油などが含まれることが知られています。未熟の種子には植物ホルモンのジベレリンのような化合物も含まれるそうです。
牽牛子には白いものと黒いものがあり、それぞれ白丑、黒丑と呼びますが、薬用としてはかつては白丑が良品とされていましたが、成分に違いはなく、現在ではむしろ黒種子の方がよく用いられようです。ケンゴシは繁用される生薬として、現行の日本薬局方にも収載されている生薬の一つとなっています。
ケンゴシの基原植物であるアサガオの学名は、日本薬局方では古い学名であるPharbitis nilとして収載されていますが、最新のAPG分類ではIpomoea nilとされIpomoea属に入れられています。