BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

ケイ(トンキンニッケイ)(クスノキ科)

Cinnamomum cassia Blume

ケイ(トンキンニッケイ)

ケイ(トンキンニッケイ)は中国、インドシナ原産の高木です。種形容語から「カッシア」とも呼ばれますが、「クアッシア(またはカシア。和名スリナムニガキ)」と紛らわしいので注意が必要です。植物こぼれ話のNo.111「セイロンニッケイ」の回でもお話ししましたが、当資料館の鑑賞温室にはケイ、セイロンニッケイ、インドグスの3種が隣り合って植えてあります。今年はケイが11年ぶりに満開となりましたので最後に残ったケイをご紹介します。

ケイの花序は2~3mある比較的高い枝先の葉腋から出ます。花は直径5mm程度でセイロンニッケイやジャワニッケイに比べると小さなものです。5月半ばから花序が出てきていたのでいつ咲くのかと毎朝見回りのついでに眺めていましたが、いつまで経っても開いた様子がありません。7月後半の夕方に半開になっているのに気づいたので、しばらく観察を続けたところ朝は半開きになりますが正午前には一旦閉じてしまい、13時過ぎに完全に開き夕方17時まで開き続けていることがわかりました。翌朝には閉じていますので夜間から朝の間に閉じると思われます(おおよそ1日花です)。正午前後に一度閉じてしまう、というのはなかなか面白い性質です。ケイの花は、構造としてはジャワニッケイのところで説明したのと同じで、6枚の花被片、9個の雄しべ、1個の雌しべがあります。ジャワニッケイと異なるところは、雌しべが目立たないことと、1つの雄しべに付く4つの半葯がやや飛び出しているところです。この雄しべの形は想像を膨らませると、熊のぬいぐるみの手のようにも見えます。

ケイの樹皮は桂皮(ケイヒ)と呼ばれ、京都の和菓子「八つ橋」の材料として有名です。薬用としての利用は非常に古く、中国の「神農本草経」の上品として収載され、奈良時代には既に日本にも伝わり正倉院の「種々薬帳」に「桂心」の名で記載され、実物が現存しています。この「桂心」は終戦後の調査により中国南部またはインドシナ産のケイ、またはCinnamomum obtusifoliumであるとされています。ケイヒは現行の第十六改正日本薬局方にも収載されており、薬局方収載の処方では葛根湯エキス、桂枝茯苓丸エキス、牛車腎気丸エキス、柴胡桂枝湯エキス、柴苓湯エキス、十全大補湯エキス、小青竜湯エキス、八味地黄丸エキス、苓桂朮甘湯エキスに配合されています。ケイヒには健胃、駆風、発汗、解熱の効果があり、矯味薬としても用いられます。