BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

シキミ(シキミ科)

Illicium anisatum L.

シキミ

<香辛料のハッカク(八角)とそっくりの果実は猛毒。誤食に要注意。>

仏事用に供えられるシキミが属するシキミ科は、シキミ属1種のみで構成される科で、約40種が知られており、東アジア・東南アジアを中心に北アメリカ東南部、中央アメリカ、西インド諸島などにみられる常緑の低木または小高木です。日本にはシキミとヤエヤマシキミの2種が知られています。
シキミは日本では仏事や儀式に供えられる植物として古くから利用されてきた植物で、シーボルトが命名したI. religiosum Siebold et Zucc.がシノニムとなっていて、religiosum(「宗教的な」)という種形容語が、それを物語っています。
関東地方より西の日本全域、済州島、台湾、中国にも自生し、大きくなると10メートルを超す高木になる常緑樹です。幹は黒っぽい灰褐色で、葉は互生し枝の上の方に集まってつき、葉身は長さ5~10cmほどの楕円形または倒卵形で葉先はやや尖っています。つやのある革質の葉で、縁は滑らかで短い葉柄があります。
3~4月頃に小枝の葉腋に淡い黄白色の写真のような花を咲かせ、花が終わると、秋には扁平で星型の袋果をつけます。枝や葉にはサフロールという香気成分が多量に含まれていて、切ると特異な芳香があることからコウノキ(香の木)、香の花、香柴などとも呼ばれ、線香の材料にされたりします。また、切花を墓前に供えることから、ハナノキ、ハカバナ(墓花)、仏前草などとも呼ばれるようです。
古代の日本では神の依り代として常緑樹が使われ、「賢木(さかき)」と呼ばれて、サカキもシキミも常緑樹として神事に使われていたとされています。しかし、シキミが香気高いことから棺に入れられることも多くなり花榊(ハナサカキ)、花柴(ハナシバ)とも呼ばれて、鎌倉時代あたりから仏事や葬儀に珍重されてきました。京都の愛宕山にある愛宕神社では今も神事にサカキではなくシキミが使われているそうです。
一方、シキミは全木に毒がありますが、特に種子を含む星型の果実には有毒成分のアニサシンが多く含まれています。この星型の袋果が、中国から東南アジアに分布する、シキミと同属のトウシキミ(I. verum)の果実にそっくりです。トウシキミの果実は、香辛料のハッカク(八角)、別名ダイウイキョウ(大茴香)で、かつてはシキミの果実の誤食により中毒事故が起こったこともあり、薬学や香辛料の世界ではすっかり悪役にされています。事実、シキミの果実は植物では唯一、毒物及び劇物取締法で、劇物に指定されています。
また最近では、シキミやトウシキミに多く含まれるシキミ酸という化合物が、インフルエンザ薬の合成出発原料として利用されたことが、ニュースとなったのでご存知の方も多いと思います。