BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

イヌサフラン(チゴユリ科)

Colchicum autumnale L.

イヌサフラン

「意外なところで役立っているイヌサフラン」

秋の彼岸のころ、イヌサフランは土の中から蕾を出し、藤桃色の花を咲かせます。葉は花が終わってから早春に出し、 6 月ごろには枯れます。この植物はヨーロッパや北アフリカの森林や湿った草地に分布する球根植物です。球根には水や養分が蓄えられており、球根を机の上においておくだけでも花を咲かせるという面白い性質があります。花は美しく、園芸植物として世界中で栽培されており、多くの園芸品種が創られて秋の庭園の彩りに用いられています。イヌサフランは英名では秋サフラン( autumn crocus )といいますが、観賞用に植えられるクロッカスやスパイスや染料として使われるサフランはアヤメ科で全く違う植物です。花が葉をつけずに裸の地面から現れることから「裸の貴婦人 (naked ladies )」ともよばれます。

ヨーロッパでは古くからこの植物は毒草として知られていました。植物毒や解毒薬について記した「 Alexipharmaca 」という書物の著者 Nicander (B.C.150 ごろ)は、「コルヒスの魔女の破壊の火」と形容しています。コルヒス( Colchis )は、黒海沿岸にあるイヌサフランが自生している地名で、属名の Colchicum の由来になったとされています。中世のころ、イヌサフランの近縁植物の球茎を薬用として使用すると、痛風の激しい痛みを抑える効果があるとして注目されましたが、実際にはその強い毒性のために、薬として使用は避けられていました。それでも、当時上流階級の人々の中には贅沢病といわれた痛風で苦しむ人も多く、イヌサフランを原料とした薬が、もてはやされたこともあったようです。観賞用によく栽培されているヒガンバナやスイセンなども球茎に毒を含みます。ただし、食べたりしなければ害はありませんので安心してください。

イヌサフランの球茎や種子に含まれるアルカロイドであるコルヒチンという物質は、特異な生物活性を持っています。この物質は細胞分裂のときに作用し、染色体が倍加した細胞をつくります。作物の品種改良において、異なる種をかけあわせた雑種は不捻(種ができない)ことが多いのですが、コルヒチンで処理すると種ができることもあります。それゆえ、この物質は栽培植物や園芸植物の作出において重要な役割を果たしています。毒を持つこの植物、鑑賞用だけでなく意外なところでわれわれの生活に役立っています。

サフランの花