BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

トビカズラ(マメ科)

Mucuna sempervirens Hemsl.

トビカズラ

トビカズラは中国中南部に分布する大型つる性植物です。日本では、熊本県山鹿市菊鹿町相良の樹齢1000年以上といわれる個体が有名です。この個体は「相良のアイラトビカズラ」という名称で国の特別天然記念物に指定されています。20世紀後半まではこの1個体のみが分布するとされていましたが、2000年に長崎県九十九島の時計(とこい)島で、2010年に熊本県天草市の天草上島で発見され、全部で3つの産地があることが確認されています。

トビカズラの花序は古い太い茎の葉腋跡から生じます。枝先をいくら剪定しても開花に影響しないところは、管理上とてもありがたいことです。花序は葉腋跡から数本伸ばし、1つの花序には10~20個の花を付けます。花は赤紫色で長さ5cmほどの大きな蝶形花になります。開花後しばらくすると独特の芳香を放ち、満開時には周囲がこの香りに包まれます。当資料館では2014年に初開花し、2015年に筆者は人工授粉を行いましたがあまりに強烈な香りに頭痛と吐き気を催して途中で作業をやめてしまいました。日本のトビカズラは結実しにくいことで有名で、1962年に初めて果実が得られた時は植物ホルモン剤(α-ナフタレン酢酸ナトリウムの10万倍希釈液)が用いられました。しかしその後の実験や各地で生育、栽培されるトビカズラの結実情報を集めますと、人工授粉をたくさん行えば必ずしも植物ホルモン剤は必要ないようです。もっとも筆者はもう、あの香りはこりごりですので、今年の人工授粉は他の栽培スタッフにお願いしています。トビカズラの果実は長さ50cm以上になる大型の莢果です。種子の入っていないところはくびれて細くなります。種子は直径2~3cmの褐色楕円形になります。

トビカズラは日本では希少すぎて利用されることはありませんでしたが、最近では旺盛な生長力に着目して壁面緑化に利用する試みが行われています。中国では常春油麻藤(chang chun you ma teng)と呼び、根や茎葉をリウマチの疼痛や月経不順に用います。また油、麻という字が入るように種子油を得たり、茎の繊維で袋を作ったり製紙原料としたりします。
トビカズラの莢果 (2015年8月 摂南大学で撮影)