BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

オケラ(キク科)

Atractylodes ovata (Thunb.) DC.

オケラ

植物の話あれこれ 22
無病息災の薬草「オケラ」

毎年、大晦日から元旦にかけて、京都祇園の八坂神社において、「朮祭り(おけらまつり)」という神事が行われる。それに参拝することを「朮参り」と呼ばれ、京都の人たちの年中行事である。

そこでは、鑽火(きりび)で朮を交えたかがり火が焚かれる。参拝者はその火を火縄(吉祥縄)に移して、火が消えないように、縄を打ち振って持ち帰る。この火を火種にして雑煮を炊く。その雑煮で家族一同が新年を祝う。そうすると、家族全員が、一年中、流行病にかかることもなく健康に過ごすことができる、と言い伝えられている。この朮火に焚かれるのが、本植物の根茎である。

オケラは、また、屠蘇散の主薬でもある。正月元旦に、屠蘇散を入れた酒を、無病、息災を祈って一家全員で飲む風習は今も残っている。また、オケラを焼いた煙に浴すると、その人から邪気が払われるとも言われている。大晦日の夜、悪鬼を追い払い、疫病を除く行事である追儺(ついな)に供える餅にオケラの根茎が入れられたりする。

このようにオケラという薬草は、その薬効から派生して人々の無病息災を祈願するのに用いられたようである。

オケラは、日本のほか、中国東北部および朝鮮半島の日当たりのよい乾いた山地に自生する雌雄異株の多年草である。その根茎を乾燥したものは、生薬「白朮(ビャクジュツ)」と呼ばれ、漢方では、体内の水分代謝異常を調節し、水毒を除く要薬といわれている。

白朮には痛みや炎症を和らげる作用、利尿作用、潰瘍を抑制する作用、胆汁分泌を促進する作用などを示すことが知られている。このため、健胃、整腸、利尿、鎮痛の目的で、胃腸病、神経痛、動悸、息切れなどに適用されている。

オケラは、古名をウケラといい、万葉集にも「武蔵野のウケラが花の・・・・」と詠われている。また、昔から「山でうまいものは、オケラとトトキ、嫁にくれるも惜しゅうござる」といわれるほど山菜としても人気がある。春、旧根から出る若芽は軟らかく、これを茹でて和え物にする。若い葉は綿毛をかぶり軟らかく、特有の香りがあり、ひたし物やゴマ和えにして食べる。

(「プランタ」研成社発行より)