BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

ペルタンドラ・バージニカ(サトイモ科)

Peltandra virginica (L.) Schott

ペルタンドラ・バージニカ


ペルタンドラ・バージニカは北米大陸の東部から南東部の湖沼に生息する多年草です。当資料館では栽培する容器に制限されて高さ30cmほどですが、池のほとりなどに地植えすると高さ1m、株の広がりも1.5m程度まで大きくなります。属名Peltandraはギリシア語の「pelte (的または小さな盾)」+「andr (雄しべ)」で、雄しべの形状に因みます。英語名はArrow Arumで、矢じり型の葉の形に因みます。Arumはヨーロッパで見られるサトイモ科植物です。

ペルタンドラ・バージニカは株元から矢じり型の葉を出します。葉の大きさは長さ15~90cm、幅10~20cmです。葉柄は葉と同じくらいの長さです。葉腋から1個の花序を出します。花序はサトイモ科に特有の肉穂花序が仏炎苞に包まれた姿をしています。仏炎苞の長さは20cmくらいです。仏炎苞が完全に開いた姿を見たことはありません。仏炎苞の隙間から中の肉穂花序を見ることができます。肉穂花序の長さは仏炎苞の半分ほどの約8cmで、附属体は無く先端側に雄花、根元側に雌花が着きます。

果実は仏炎苞に包まれたまま大きくなり、長さ10cm、太さ4㎝ほどになります。果実が熟すと仏炎苞は崩壊して中から直径2、3cmの緑色の果実が出てきます。この果実は数日から1か月以上にわたり水に浮いて分布域の拡大に寄与します。果実の中には一回り小さな緑色の種子があります。果実と種子の間には多糖と思われるゼリー状物質が入っており、この部分が給水すると種子の2倍くらいの大きさに膨らみます。このゼリー状物質は、種子が水の少ない場所にたどり着いてしまった場合に定着するまで水分を保持する機能があるのではないかと想像します。

ペルタンドラ・バージニカは多くのサトイモ科植物と同様にシュウ酸カルシウム結晶を含むため生食することはできませんが、北アメリカ原住民は塊茎や果実を加熱して食用としました。

仏炎苞を切り開き、肉穂花序を取り出したところ
果実を包む仏炎苞
仏炎苞が崩壊して果実が露出したところ
発芽した種子(芽の根元の緑から褐色の球が種子。種子の周囲をゼリー状物質が覆う)