BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

ハチジョウネジバナ(ラン科)

Spiranthes hachijoensis Suetsugu

ハチジョウネジバナ


ハチジョウネジバナは本州の関東以西から九州に分布するラン科の多年草です。

ハチジョウネジバナは2023年3月17日に論文が発表されたばかりのホヤホヤの新種です。ハチジョウネジバナはネジバナと同所的に存在しますが、開花期が早いこと、花茎や子房に毛が無いことでネジバナと区別できます。またネジバナと奄美大島以南に分布するナンゴクネジバナに対しては、花粉塊に粘着体が無いこと、柱頭に小嘴体しょうしたい(自家受粉を防ぐ効果がある花粉塊と柱頭を隔てる仕切り)が無いことで区別できます。

今回はこの論文をもとに早速、山科植物資料館にもハチジョウネジバナが生息すると分かったのでその発見記です。本記事担当はツイッターでこの情報(論文)を知りました。月曜日に出社して園内チェックを行っていると、無加温室の鉢内でネジバナが咲いているのに気づきました。以前からここのネジバナが早く開花するのは知っていましたが、室内だから早く咲くのだろうと思っていました。しかしハチジョウネジバナの存在を知ってからよく見ると、花茎に毛がないのです。

無加温室には沖縄や海外から持ち込んだ植物もあるので、花茎に毛がないだけではこれらの植物と一緒にやってきたナンゴクネジバナである可能性があります。そこで顕微鏡下で花を分解してみました。すると、ネジバナを(当然ナンゴクネジバナも)ここまで細かく見たことがないので花の構造をなかなか理解できませんでしたが、花粉塊に粘着体が無いこと、柱頭に小嘴体がなく「チューリップ型」をしていることが分かりました(参考文献より神戸大学プレスリリースの図3参照)。どうやらハチジョウネジバナで正しいようです。

園内にネジバナが生えているのはもちろんですし、温室内に早く咲くネジバナがあることも知っていました。しかし日本には(正確には本州には)ネジバナ一種類しか存在しないと思っていると、別のネジバナが隠れていることには気づけませんでした。種の多様性もしくは生き物の存在を認識するには、分類して適切な名前を付けること(=分類学)がまず第一歩であることを改めて知ることができました。

ハチジョウネジバナ (花茎に毛がない)
ネジバナ (花茎に毛がある)
ハチジョウネジバナの柱頭。下側(唇弁側)から撮影。中央に柱頭。柱頭先端左側の黄色い粒の塊は2つある内の左側の花粉塊。右後ろに外れかけているのが葯帽と葯帽に付着した右側の花粉塊)。白線は長さ1mm。

参考文献
神戸大学プレスリリース https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2023_03_17_01.html
Suetsugu et al. 2023. https://doi.org/10.1007/s10265-023-01448-6