ハスは、寺院の庭や公園の池に、また城の堀などに植えられている。夏になると、大きくて優雅な花が咲き、見る人の心を和ませてくれる。
星野富弘の詩の中に「黒い土に根を張り、どぶ水を吸って、なぜきれいに咲けるのだろう」とある。ハスは、あんな泥水を吸って、どうしてこんなに美しく咲くことができるのであろうか。
ハスは、花が美しいだけでなく、食用植物としても重要である。泥の中を走る地下茎は、秋になると、肥大根茎を形成する。その肥大根茎はレンコン(蓮根)と呼ばれ、野菜として利用される。
レンコンには通常7~10個の大きな穴が開いている。レンコンに、いくつもの大きな穴が開いていることは、誰でもよく知っている。しかし、葉柄や花柄、また、葉脈にも穴が開いていることは、あまり知られていない。
写真1に見られるように葉柄には4個の穴が、花柄には7~8個、葉脈にも2個の小さな穴が、それぞれ開いている。これらの穴は、実は、空気の通り道になっているのである。
更に、写真2に見られるように、葉の中央部、すなわち、葉柄と接続している黄白色斑部分は、スポンジ状の組織になっており、外界からの空気を取り入れることができるようになっているのである。従って、ハスは葉の中央の黄白色斑部分から、ろ過されたきれいな空気を体内に取り入れ、その一部は葉脈の穴を通って葉の隅々まで送られ、また大部分は、葉柄や地下茎の穴を通って根の隅々まで送られる。
このようにして、新鮮できれいな空気がハスの体内の隅々まで絶えず送り続けられている。このためにハスは、酸素の稀薄な水中でも、平気で旺盛に生育することができるのである。すなわち、ハスは、シュノーケルをくわえながら水中で生活しているのである。そして、ハスがきたない泥水の中でも、美しく花を咲かせることができるのも、このことによるのではないかと思う。
ハスの種子はデンプン質に富み、未熟な間は軟らかく甘みがあって皮をむいてそのまま生食できる。しかし成熟すると石のように硬くなる。これを水につけて軟らかくもどす。湯がくと、アクもとれる。それを、粥に炊き込んだり、野菜と炒めたり、煮物に入れて煮込んだりしてたべる。また甘く煮てデザートにしたり菓子を作る材料に用いたりする。
ハスは薬用植物としても利用される。葉や雄しべ、果実、種子などにはアルカロイドが含まれている。果実や、雄しべには利尿作用などがあり、葉には解熱、利尿、止血などの作用があるといわれている。これらは強壮薬や利尿薬、止血薬として用いられる。
(「プランタ」研成社発行より)