BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

ドリアンテス・エクセルサ(ドリアンテス科)

Doryanthes excelsa Corrêa

ドリアンテス・エクセルサ

ドリアンテス・エクセルサはオーストラリアのニューサウスウェールズ州東部の開けた森林地帯に分布する巨大な多年草です。地名にちなんでガイミア・リリー Gymea Lily と呼ばれます。ロゼット状の葉の中心部から背が高い花茎を伸ばすことから、かつてはリュウゼツラン科に分類されていましたが、APG分類体系では独立のドリアンテス科に分類されます。ドリアンテス科は1属2種で、本種のほかにパルメリD. palmeriが知られています。ドリアンテスはギリシア語の「dory(槍)」+「anthos(花)」を意味します。種形容語のexcelsaはラテン語の「高い、高く伸びる」の意味です。1m以上の長さの葉は生け花材料になるほか、茎は焼いて食べられます。

当館のドリアンテス・エクセルサはニューサウスウェールズ州にあるNorth Coast Regional Botanic Gardenから1999年に種子を入手したものです。2009年に現在の場所へ定植して、14年を経て2023年の5月1日に花茎を発見しました。それからおよそ13か月を経過して2024年の5月29日に開花しました。現地の情報では、ドリアンテス・エクセルサは発芽から開花までに5~20年を要するそうです。当館では発芽から25年もかかりましたが、発芽から定植までの10年間は鉢で管理していたこと、地植えにしてからも原産地より寒いために冬に葉が枯れていたことが開花の遅くなった原因だと思われます。花茎が伸び始めてからも、冬の寒さで花茎が枯れてしまわないか心配でしたが、開花にたどり着いたのでほっとしています。

ドリアンテス・エクセルサの花茎は高さ約4mになります。先端の花序の直径は20cmほどあります。一つ一つの花は直径10cm程度で、花被片は6枚、雄しべ6個、めしべ1個です。花被片のコーラルピンクと、雄しべの葯から出てくるモスグリーンの花粉のコントラストが美しいです。花の中心部にはゼリー状になった蜜がたっぷりと入っています。なめてみると少し甘みがありました。花が巨大すぎるからなのか、海外産植物でなじみがないためかわかりませんが、チョウやクワガタムシの類は現れず、シラホシハナムグリとショウジョウバエだけが集まっていました。ショウジョウバエは、蜜ではなく枯れた花に集まっているのかもしれません。

開花のピークは3週間ほどで、公開時点では咲き終わっています。ドリアンテス・エクセルサはリュウゼツランとは異なり、開花した後も脇芽が残って次の花を咲かせるようですが、今のところ当館の株には脇芽はありません。種子ができた後には枯れてしまうのか、これから脇芽が伸びてくるのか、どきどきしながら栽培を続けています。

参考文献
T. Tanaka. 1976. Tanaka’s Cyclopedia of Edible Plants of the World. Keigaku Publishing Co. Tokyo.
Doryanthes excelsa. Australian Native Plants Society (Australia). https://anpsa.org.au/plant_profiles/doryanthes-excelsa/

 ドリアンテス・エクセルサの花中心部にたまる蜜
 ドリアンテス・エクセルサの花に潜り込むハナムグリ

花茎の出現から開花までの記録を動画にまとめました。YouTube公式チャンネルで公開しています。