BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

セイロンベンケイ (トウロウソウ)(ベンケイソウ科)

Bryophyllum pinnatum (L.f.) Oken

セイロンベンケイ (トウロウソウ)


植物の話あれこれ 46
幸運を招く植物「セイロンベンケイ」

この植物の葉は、英語で、”Good-luck leaf”(幸運の葉)と呼ばれている。葉を切り取り、表向きにして土の上に置いておくと、葉脈の末端から新しい芽(不定芽)が発生する。努力はするが、なかなか芽の出ない人も、「幸運の芽」が出てくるということで、このように呼ばれているのだと思う。切り取られた葉から芽が出るのは、葉で生成された植物ホルモンの “IAA”(Indoleacetic acid)が移動できなくなり、葉脈の末端にある細胞の分化を促すことによるといわれている。

この植物の学名(属名)”Bryophyllum”は、ギリシャ語の”bryo”(芽が出る)と、”phyllon”(葉)に由来する。葉に不定芽が生じることにちなんで名付けられたものと思う。ドイツ語名でも、 “Brutblatt”(芽の出る葉)と呼ばれている。沖縄などでは、「ハカラメ」と呼ばれている。「葉から芽」が出ることから、そのように呼ばれているのであろう。葉を土の上でなく、机の上に湿った布を敷き、その上に置いておいても、たくさん芽が出てくる。葉をピンで壁に吊っておいてもよい。発生した芽が生長してくると、親の葉は枯れ、容易に芽(苗)が外れる。

この芽を植えて育てると、高さ1.5m程になり、長さ30~70cmの花序に、緑白~橙色の釣鐘状の花を多数着ける。その様子が、灯籠を思わせることから、この植物は、別名で「トウロウソウ(灯籠草)」とも呼ばれている。

「セイロンベンケイ」は南アフリカ原産の多肉植物であるが、現在では、熱帯各地で野生化し、広く分布している。日本でも、奄美大島や沖縄で、この植物が野生化しているのを見ることができる。この植物は、中国名で、「落地生根」と呼ばれている。この名は、落ちた葉がなお生きて根を出し生長するというこの植物のしたたかな性質を表している。この植物が熱帯各地に広範に分布していったのは、このような性質によるものと思われる。この植物の全草や根には、消炎作用や、止血作用、解毒効果のあることが知られている。このことから、中国では、吐血、胃痛、関節痛、刀傷出血、のどの腫れや痛み、乳腺炎、潰瘍、やけどなどに用いる。沖縄でも、葉を止血、はれもの、虫さされになどに使われる。

これらの薬効を実証する基礎的な研究も進められている。インドのS.Pal博士ら(Jadavpur大学, Calcutta)は、この植物の葉のエキスが9種の動物モデルで、有意な抗潰瘍作用を示したと報告している。また、潰瘍に対する防御効果もあることを明らかにしている。アフリカのObaseiki-Ebor博士は、この植物の葉のエキスが、広範な抗菌スペクトラムを持つことを明らかにしている。感染症に対しても薬効が予測される。ナイジェリアのOrajide博士ら(Ibadan大学)は、各種動物モデルを用いて、この植物の葉のエキスが、鎮痛作用や、抗炎症作用を示すことを実証している。

オーストラリアで、この植物を、大量に食べた牛2頭が、48時間以内に死亡した。シドニー大学のReppas博士が、その死因について調べたところ、前胃に激しい急性の炎症が発症していた。また、気管の狭窄、および肺気腫なども発症していた。この植物には、かなり強い毒性成分が含まれているように思われる。 アメリカの Yamagishi 博士ら(ノースカロライナ大学)は、この植物中に強力な細胞毒性を示す”Bryophyllin-A” および”Bryophyllin-B”と呼ばれる成分が含まれていることを報告している。これらの成分が上述の家畜の中毒症状と深い関連があるのかもしれない。

ブラジルやその他の国では、種々の炎症性疾患の治療に、この植物の葉が、よく使われる。最近ブラジルのS.S.Costa博士らリオデジャネイロ自由大学(Universidade Federal do Rio de janeiro)の研究グループは、この植物の葉のエタノールエキスに、ヒトのリンパ球の増殖を抑制する効果のあることを見出した。その有効成分は、89%のパルミチン酸(Palmitic acid)、11%のステアリン酸(Stearic acid)、微量のアラキドン酸(Arachidic acid)およびベヘニン酸(Behenic acid)の4種の飽和脂肪酸からなることが明らかにされた。「セイロンベンケイ」の葉の抗炎症効果は、上述のようにリンパ球の増殖抑制による免疫抑制作用によると考えられている。

(「プランタ」研成社発行より)
トウロウソウ属の一種