「アセロラ」といえば、アセロラ果汁入り缶ジュース「アセロラドリンク」などでよく知られている。それらの商品には、天然のビタミンCが多量含まれていることが説明されている。
アセロラの果実には、世界の各種果実の中で最も高い含量のビタミンCが含まれている。フトモモ科のグアバの果実は、ビタミンCを豊富に含むと言われている。そのグアバの果実には 0.27%のビタミンCが含まれている。しかし、アセロラの果実は1.6~17.2%のビタミンCを含む。グアバの約6~64倍の含有量である。
レモンの果実もビタミンCを多く含む果物としてよく知られている。レモンには0.09%のビタミンCが含まれている。アセロラはレモンの約18~190倍のビタミンCを含むことになる。このことからも、アセロラがいかに多くのビタミンCを含むかが容易に理解できると思う。
アセロラ果実のビタミンCの含量は、果実の成熟度合や、収穫の季節、気候、栽培地により変動する。ビタミンC含量が最も高い収穫期は、果実の色が赤くなる前の未熟な状態のときである。果実の成熟が進むと、ビタミンC含量の著しく低下する。このような理由から、果実の収穫は、果実の色が、まだグリーンの時に行われる。
アセロラは、熱帯アメリカ、西インド諸島原産のキントラノオ科の常緑低木植物である。「アセロラ」(Acerola)という名称はスペイン語である。英名では、 “West indian cherry”(西インドチェリー)とか、”Barbados cherry”(バルバドスサクラ、バルバドスチェリー)などと呼ばれている。いずれの名も、原産地に由来する。
「バルバドス」は西インド諸島の一つの島の名前である。この島は、1966年に独立し、現在は「バルバドス国」になっている。首都は”Bridgetown”である。「チェリー」という名称は、アセロラの果実の色や、形や大きさが「サクランボ」に似ているため、このように呼ばれるようになったのだと思う。
アセロラは亜熱帯から熱帯までの広い範囲で、栽培されている。原産地の熱帯アメリカや西インド諸島のほか、フィリピンやハワイなどでも栽培されている。開花から果実が成熟するまで、約1ケ月かかる。同じ木から、果実を1年に何回も収穫することができる。1年に7回も収穫できることもあるとのことである。原産地の先住民の人たちは、古くから、この果実を生食していたということである。熱帯では、家庭果樹として植えられている。熟した果実を、毎日少量ずつ、薬でも飲むように食べるとのことである。
この果実は、気温が高いと、収穫後、数時間で薄い果皮が発酵して傷みだす。このことから、サクランボのように生果を店頭で売ることはできない。果汁などの生産業者は、果実を収穫後、ただちに選別し、洗浄後、凍結する。このことにより、果実の劣化を防いでいる。その後、この凍結果実から、果汁を搾り、それを賦形剤とともにスプレードライにかけて、乾燥粉末にする。このようにして得られたアセロラ果汁の乾燥粉末にはビタミンCが、2~4%も含まれているとのことである。このような果汁粉末を、飲物やキャンデーに加え、ビタミンCに富む機能性食品として市販されている。
>ノーベル賞を2回受賞したライナス・ポーリング博士は風邪の予防からガンの治療までビタミンCの効能を強く訴えたことで有名である。同博士は1日少なくとも500mgのビタミンCを摂取することが望ましいと述べている。もし、このような大量のビタミンCを補給する必要があるとすれば、アセロラは天然ビタミンCの最適の供給源といえるであろう。
アセロラは無毛の常緑樹である。学名(種名)の”glabra”は「無毛の」という意味で、樹の性質を表している。樹の高さは2~3mである。葉は卵形で、先端が尖り、長さ8cmほどで、ほとんど無柄である。花は、淡紅色で径2cmくらいの小花で、葉腋に着く。果実は、赤色で径2cmほどの大きさである。果皮は薄く、果肉は多汁である。サクランボに似て酸味がある。生食するほかジャムやプレザーブ、シャーベット、ゼリー、ポンチ、飲物などにする。
アセロラの果実には、ビタミンCだけでなく、カロチンやビタミンB1、B2、ミネラル(主に鉄、カルシウム、リン)なども豊富に含まれている。このため、果実は、薬用としても使われる。胃腸病や風邪、肝炎、胆のう異常などに効果があるということである。また、アセロラ果実は、ビタミンCによるのかもしれないが強い抗酸化能をもつ。果実のエキスが抗カビ活性を示すことも知られている。果実に含まれている多糖質やタンパク質には、皮膚の保湿作用がある。この作用を利用して化粧品への適用も検討されている。このように、アセロラ果実のもつ多様な機能性から多方面への応用が期待されている。
樹皮には、26%ものタンニンが含まれていて、そこから染料がとられる。材は、堅く重厚なため、木工細工用材に使われる。観賞樹としても価値が高く、庭園に植えられるほか、西インド諸島では、生垣として使われている。
マルピギア属植物(Malpighia L.)は、ほとんどが常緑の低木または小高木で、熱帯アメリカに、約40種ほどが分布している。花と果実が美しく、庭の花木や、生け垣に利用される。この属の植物に「ヒイラギトラノオ」(M. coccigera L.)がよく知られている。西インド諸島原産の高さ1mほどの低木で、花は桃色で径約1.5cm、果実は赤く、径約1cmほどである。観賞用に温室などで栽培される。熱帯では生垣に利用される。沖縄では、夏期によく開花する。
属名”Malpighia”は、イタリアのボローニア(Bologna)州博物館長マルピギー(Marcello Malpighi,1628~1693)氏の名にちなむと言われている。
(「プランタ」研成社発行より)