BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

アシュワガンダ(ナス科)

Withania somnifera (L.) Dunal

アシュワガンダ

植物こぼれ話 50
若返りの妙薬 「アシュワガンダ」

(註:掲載当時(2001年)の情報です。アシュワガンダは2012年に、厚生労働省が指定する食薬区分の「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)」に区分され、食品として使用することはできません)

1997年1月に、マンダラワールド社(福島市)の大矢泰司社長が当社に訪ねて来られた。その折り、この植物の根に「ヒトの精液中の精子の数を増加させる作用がある」という話を聞き、強い興味を抱いた。その後、当社において、この作用を確認するための動物実験が行われた。その結果、女性ホルモンでダメージを受け縮小してしまった精嚢腺が、この植物の根のエキスを投与することにより、その回復が早められることが明らかにされた。またサウジアラビアのKing Saud大学の研究者らは、今年(2001年)、未熟ラットを用いた研究で、この植物のエキスが睾丸の発生を促進する効果のあることを報告している。すなわち、睾丸の重量増加や、精子形成の促進、輸精菅細胞の増殖促進などが観察されたとのことである。

この植物はインドで「アシュワガンダ」(Ashwagandha)と呼ばれている。インドでは、この「アシュワガンダ」が古くから「若返りの妙薬」として用いられてきた。インドで3千年もの長い間受け継がれてきた伝統的アユルベーダ療法において、「アシュワガンダ」は、ラサーヤナ(不老長寿の薬)として用いられてきた。若さを保ち、長寿をもたらすだけでなく、記憶力や思考能力、身体的持久力や免疫能を高める効果があるとされている。更にストレスや不眠症にも有効で、スタミナとバイタリティーを増強する効能があると言われている。最近の研究では、うつ状態の患者の精神的な機能を促進し、老化やストレスを抑え、ガンを予防する作用が明らかにされている。また、病気の回復を早め、死亡率を下げるということも認められている。

「アシュワガンダ」は、また、アユルベーダ療法において、ヴァージー・カラナ(強精薬、催淫薬)としても用いられてきた。精機能を高める効果があると言われており、インポテンツの治療などに使われる。インドでは、この「アシュワガンダ」の根が、上記のように強壮・強精薬として、あたかも「チョウセンニンジン(朝鮮人参)」”Panax ginseng” (英名;Ginseng)のように用いられることに因んで「インドニンジン(インド人参)」”Indian ginseng”とも呼ばれている。

インド西部・プネー(Pune)の研究者らは、1994年「アシュワガンダ」と「チョウセンニンジン」の薬効を比較した研究を行い、興味深い結果を報告している。彼らは、両者について、抗ストレス作用と同化促進作用を試験している。抗ストレス作用については、マウスの水浸ストレスに対する耐久性を調べている。すなわち、マウスを水に泳がせて死に至るまでの時間を測定している。対照群では、その時間は平均163分であった。これに対し「アシュワガンダ」エキス100mg/kg投与群では、474分(対照群の2.9倍)であった。また、「チョウセンニンジン」エキス投与群では537分(対照群の3.3倍)であった。両者とも水浸ストレスに対して強い抗ストレス作用を示した。なお、この試験におけるマウスの死亡原因は、水浸ストレスにより発生した消化性潰瘍によるものである。同化作用(Anabolic activity)については、ラットの体重の増加と、”Levator ani muscle”の増加を調べている。”Levator ani muscle”とは、骨盤隔膜の重要な筋で、主として恥骨体後面から尾骨に向かって後方に走っている。これには、恥骨尾骨筋(男性の前立腺挙筋、女性の恥骨膣筋)や恥骨直腸筋、腸骨尾骨筋も含む。体重においては、対照群では7日間で、7.3gの増加が見られた。これに対して、「アシユワガンダ」エキス1g/kg/day投与群では、9.0g(対照群に対し23%↑)の増加であった。「チョウセンニンジン」エキス投与群では、8.6g(対照群に対し18%↑)の増加であった。”Levator ani muscle”の増加については、対照群では、5.3gに対し, 「アシュワガンダ」では、8.0g(対照群に対し51%↑)、「チョウセンニンジン」では、9.1g(対照群に対し72%↑)であった。

上の結果に見られるように、両者は同化を著しく促進する作用を示した。「アシユワガンダ」と「チョウセンニンジン」が、ともに強い抗ストレス作用および同化促進作用を示したことに対し、著者は、両者とも高含量の植物性ステロイドを含んでいることに起因すると考察している。

「アシユワガンダ」は、古来、伝統的なアユルベーダ療法において、記憶力や思考能力を高める効果を期待して投薬されてきた。しかし、最近の研究から、この生薬がアルツハイマー病治療薬として有望視されてきている。インドのBanaras Hindu大学の研究者らは、1995年、イボテン酸(Ibotenic acid)で脳に障害を起こさせたラットのアルツハイマー病モデルにおいて、「アシュワガンダ」エキスが学習能力や記憶能力に改善効果をもたらしたと報告している。その後、この作用の有効成分や作用機序についても研究が進められている。

「イボテン酸」は有毒キノコ「イボテングタケ」”Amanita pantherina”に含まれている成分でアミノ酸の一種である。ハエが、これを舐めると死ぬので「イボテングタケ」は、別名で「ハエトリタケ」とも呼ばれている。「イボテン酸」のこのような作用を利用して、一時、殺虫剤として使われていた。「イボテン酸」は、また、強力な痲酔増強作用を示すことが知られている。このような作用を利用して、現在では脳の生理作用を研究するための試薬として使われている。「イボテン酸」の化学構造は、回虫駆除薬として知られている「カイニン酸(Kainic acid)」とよく似ている。「カイニン酸」は、虫下しとして昔から有名な「マクリ」、別名「カイニンソウ(海人草)」”Digenea simplex”の有効成分である。「カイニン酸」は、回虫の運動を、はじめ興奮させ、その後、麻痺させる。回虫や、蟯虫、鞭虫の駆除、特に回虫の駆除に使われた。

また、2000年、富山医科薬科大学薬効解析センターの東田千尋らは、「アシュワガンダ」エキスが痴呆症などで見られる脳の神経回路障害を回復させる可能性を示唆する研究結果を報告している。すなわち、「アシュワガンダ」エキスがヒトの神経芽細胞腫細胞(Neuroblastoma cells)培養系において、神経突起(Neurites)細胞の発生を有意に増加させる効果を示したとのことである。

「アシュワガンダ」には、強力な免疫抑制活性を示す成分”Withaferin-A”が含まれている。この成分は、植物ステロイド(Phytosteroids)の一種である。しかし、従来の植物ステロイドとは異なる骨格、すなわち、Ergostane骨格を持つ。このため、”Withaferin-A”に類似する成分を総称して、”Withanolides”と呼ばれている。”Withanolid D”は、”Withaferin-A”の類縁体であるが、この成分も「アシュワガンダ」に含まれている。両者とも、強い抗腫瘍活性を示すことが知られている。”Withaferin-A”は上述のように、免疫抑制作用を示すが、”Withaferin-A”のO-配糖体である”Sitoindosides Ⅶ~Ⅹ”と”Withaferin-A”の等モル混合物をラットに投与すると、”Withaferin-A”単独投与の場合と異なり免疫促進作用を示す。それだけでなく、学習能力や記憶能力を亢進させる作用を示す。

「アシュワガンダ」はインド、アフリカ南部、地中海地域に分布する常緑の小低木である。冬になると、小さな赤い果実を着ける。この植物は英名で”Winter cherry”と呼ばれている。この可愛い実に因んで、このように名付けられているのだと思う。地中海沿岸地方では古くから栽培され、その根を催眠薬として利用してきた。学名(種小名)の”somnifera”は、「催眠性の」という意味であるが、この名前の由来は、このような用途によるものと思われる。Withania属植物は、約10種がアフリカ、地中海地域沿岸からインドにかけて分布している。

東インドからアフガニスタンにかけて分布する”Withania coagulans Dunal”は、黄色の花が咲き、果実は現地の人たちによりチーズをつくるときの”Coagulant”(凝固剤)として用いられている。この植物は、このような用途から、”Cheesemaker”とか、”Indian rennet”と呼ばれている。

(「プランタ」研成社発行より)