BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

カキドオシ(シソ科)

Glechoma hederacea L. subsp. grandis (A.Gray) H.Hara

カキドオシ

<カントリソウ、レンセンソウとも呼ばれる薬用植物>

カキドオシは、里山や道端にもよく見られる多年生草本で、日本各地に見られるほか、台湾、中国、朝鮮半島やシベリア東部にも分布しています。
周囲に荒い鋸歯のある丸い葉は長い柄をもち、四角い茎に対して対生につきます。春に草丈が15cmほどになると、その葉の葉腋に紅紫色のシソ科特有の唇形花を2、3個つけます。花が終わると茎は倒れて匍匐し長くつる状に伸びて、垣根も通って行くところからカキドオシ(垣通し)という名が付いたといわれています。「垣通し」は俳句では春の季語にもなっています。
茎や葉を揉むとそこはかとなくよい香りがするのは、精油が含まれているからで、その成分としてl-ピノカンフェン、l-メントン、l-プレゴン、ピネン、リモネン、メントール、リナロールなどのモノテルペン類が知られています。ほかにタンニン、苦味物質、アミノ酸類、ウルソール酸、コリンやコハク酸を含むことがわかっています。
花の時期に刈り取って乾燥させた全草を、解熱、利尿や小児の疳症に民間薬として利用されてきた薬用植物で、カントリソウ(疳取り草)とも呼ばれます。また漢方ではレンセンソウ(連銭草)と呼ばれますが、これは長い茎に丸い葉が連なる形状から、丸い葉を銭に見立てて付けられたとされています。
胆汁分泌促進作用、血糖降下作用や消炎作用も知られ、利尿、消炎、鎮咳、解毒薬として使用され、黄疸、胆のう結石、尿路結石、腎炎、糖尿病や小児疳症などに、煎剤や茶剤として広く用いられる生薬です。
薬用の他には染色にも利用でき、媒染剤によって黄茶色、鼠色、こげ茶色などに染めることができます。
類似植物のGlechoma hederacea L.はヨーロッパ原産で、北米にも分布していますが、英語ではグランド・アイビー(Ground Ivy)と呼ばれ、16世紀頃まではビールの矯味付けに利用されました。その後はホップに取って代わられました。薬用としては気管支炎、胃炎、膀胱炎、副鼻腔炎や耳の感染症などに利用されてきた薬草です。
カキドオシは、身近にあって様々な用途に利用されてきた植物のひとつといえます。