イナゴマメは地中海沿岸からシリア、アラブ、熱帯アジアにかけて広く分布するジャケツイバラ科(APG分類ではマメ科ジャケツイバラ亜科)の高さ10~20mに達する常緑高木です。学名の「Ceratonia」はギリシア語のKeras(角)に由来し、種形容語「siliqua」は長角果を意味し、どちらも特異な形の果実を角に見立てたものです。新約聖書では放蕩息子のたとえ話に登場し、バプテスマのヨハネの食べていた「イナゴと野蜜」のイナゴがイナゴマメのことであるとされることから、キリスト教徒には馴染みの深い植物です。
イナゴマメの花序は幹や古い枝の葉腋につきます。花被片がないため始めから雄しべが剥き出しになっています。中央の花盤が直径7mmくらいになり、雄しべの花糸が1cmくらいに伸びて開葯すると開花したことになります。イナゴマメは雌雄異株または同株ということで、良い個体に出会えれば雄花と雌花の両方が咲くのですが、この株は雄花しか咲かない雄株でした。文献等によると雌花は雄しべが無く、花盤の中心に長さ1cmくらいの雌しべが突き出るようです。
イナゴマメの莢は多量の糖を含み栄養豊富なため食品として広く利用されています。種子も粉にして食用されます。アメリカの「医師用卓上参考書(PDR for Herbal Medicines Third Edition)」には「Carob」として記載されています。キャロブは急性の栄養障害、下痢、腸炎、胃腸障害、セリアック病、スプルーに対する食事性薬物として用いられ、また種子粉末はグルテンフリーのパンを作るのに使われるとあります。
イナゴマメの種子の最も有名な利用は、古代の金や宝石を量る分銅として用いられたことです。金の純度を示すK(18Kや24Kなど)や宝石の重さの単位であるカラット(Carat)は、この植物に由来します。というわけで、今回咲いた株と同じ種子がまだ残っていたので、重さを調べてみました。11粒が残っていて平均223mg、標準偏差は11.5で平均に対する誤差は10%以内でした。今の感覚ではかなりばらついているような気もしますが、微量のものを正確に計量できなかった古代には重宝したのではないでしょうか。
イナゴマメの種子 (赤い棒は長さ1cm)
(追記)
こちらで両性花と雌花の記事を載せています。