BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

ベラドンナ(ナス科)

Atropa belladonna L.

ベラドンナ


植物の話あれこれ 3
麗婦人と呼ばれる毒草「ベラドンナ」

この植物のことを、ベラドンナBella Donna(イタリヤ語で「美しい淑女」の意)と呼ぶようになったのは、ルネッサンス期にイタリアのベネチアなどで婦人たちがこの植物の葉の汁を点眼して目を大きく美しく見せるために化粧用に使ったことに由来すると言われている。この植物の葉や根には「アトロピン」と呼ばれる成分が含まれている。この成分には、瞳孔を拡大する散瞳作用がある。上に述べた「目が大きく美しく」見えるようになるのは、このアトロピンの作用によるものである。「アトロピン」は、またオウム真理教事件でサリンの解毒薬として有名になったこともよく知られている。

ベラドンナは古くから「悪魔の草」と呼ばれ、その強い毒性が恐れられていた。悪魔や魔女はことのほかこの毒草を好み、ワルプルギスの夜(魔女たちがブロッケン山に集まって魔王と宴を張る五月祭りの前夜)を除いて、一年中忙しく、この植物の手入れに励んでいると言い伝えられている。

学名(属名)のAtropaはギリシャ神話の運命の女神「モイラ」の一人で運命の糸を断ち切るアトロポス Atroposにちなんで名付けられたと言われている。これは、この植物のもつ運命の糸を断ち切るような強い毒性によるものと思われる。

しかし、このような強い毒性が知られていながらも、なお美しくなるためにはどの様な努力をも怠らなかった女性たちが、これを目薬に用いた勇気には敬意を表したい思いがする。現在も、なおヨーロッパでは「アトロピン」入りの目薬が市販されていると聞く。興味ある方は、一度試してみられてはいかがであろうか。勿論、安全面には十分留意されている筈である。

(「プランタ」研成社発行より)