この植物の花の形がユニークで、煙草を喫うパイプに似ていることから、この植物の名は「パイプカズラ」と呼ばれている。また学名(種名)の”elegans”は、英語の”elegant”を意味する言葉で、花の着いている様子が、いかにも優美で、風雅な趣をかもし出すところから、このような名前がつけられたのだと思う。
花は、黄緑色で長い花柄をもち葉腋に1個つく。花の長さは5~6cmで、花の基部は筒状で湾曲し先は広がってラッパ状になっている。このラッパ状の部分に紫褐色のまだらなサラサ様の網目模様が見られるが、このことから、この植物は英名でCalico flowerと呼ばれている。 パイプ様の花の形は、この植物の繁殖のためには極めて好都合な構造になっている。すなわち、このような構造のため花粉を媒介する昆虫が、花の内部に進入してきたとき、虫が容易に外に出られない。つまり「罠」のようになっている。このため昆虫が内部でもがき動き回る。このことにより、受粉がうまく行われるのである。
本植物はブラジル原産のウマノズズクサ属植物である。属名の”Aristolochia”はギリシャ語のaristos(「最良の」の意)とlochia(「出産」の意)からなり古くから出産の痛みを和らげるために、この属の植物が用いられていたことによる。パイプカズラも、原産地のブラジルでは薬用に用いられる。すなわち、根や茎を、健胃強壮剤、駆風剤、利尿剤として用いたり、蛇の咬傷に用いたりする。
この植物の果実が熟すると、写真に見られるように、基部の方から6分裂し、馬の首に吊り下げる鈴に似た形のものが吊り下げられているような恰好になる。このことから、属名の「ウマノスズクサ(馬の鈴草)」の名がついたと言われている。
成熟した裂開果実の中には軽くて風に飛ばされやすそうな種子が多数含まれている。当館では温室の中で栽植しているので、そのような光景を見たことはないが、野外であれば、おそらく、風が吹くと、果 実の大きく拡がった口から、多数の種子が飛び出し、遠くへ飛散していくのではないかと思う。
(「プランタ」研成社発行より)