BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

ニオイクロタネソウ(キンポウゲ科)

Nigella sativa L.

ニオイクロタネソウ

キンポウゲ科クロタネソウ属植物は、ヨーロッパ南部から北アフリカ、西南アジア、や中央アジアにかけておよそ20種の分布が知られる一年生草本です。中でも花や果実の形が特徴的で美しいのでしばしば見かけるようになったのが、クロタネソウ(黒種草)あるいはニゲラという呼称でも呼ばれる Nigella damascenaですが、クロタネソウより少し小ぶりでその種子が香料、調味料あるいは薬用として利用されてきた種に、ニオイクロタネソウがあります。

40から50cmほどの草丈で、細かく分岐した葉が互生し、花は枝先にひとつつきます。花弁に見える総苞は通常5弁で、白色あるいは薄青色で、5月頃見ることができます。花が終わるとさく果ができ、たくさんの黒い種子ができます。属名は黒を意味するラテン語nigerから、また和名もこの種子が黒いことからつけられています。

この種子は英名ではBlack cumin(cumin:クミンはセリ科植物の種子)と呼ばれ、特有の芳香をもっており、インドではカレーやナンの香りづけに使われる香辛料です。そればかりでなく、インドでは消化剤、駆虫薬、利尿薬、通経薬、皮膚用剤などに幅広く利用され、広く栽培されています。種子にはカルボン、リモネン、チモールなどの精油成分やニゲリシン、ニゲリシメンなどのアルカロイドやサポニンなどの化学成分が含まれることが知られています。

欧州ではニオイクロタネソウの種子は胡椒が東南アジアから導入されるまでは重要な調味料であったことがわかっています。また、ニオイクロタネソウはツタンカーメンの墓から出土した植物として知られ、クレオパトラやネフェルティティが種子から採れる香油を美容に使用したとされています。1世紀のディオスコリデスの「薬物誌」には種子を頭痛、歯痛、鼻カタルや虫下しに用いると記載があり、古くから世界中で利用されてきたことが知られています。現在でも多くの研究が行われて、様々な薬理活性が知られてきており、日本では知られざる薬用植物のひとつです。