BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

トラガカントゴムノキ(マメ科)

Astracantha gummifera (Labill.) Podlech

トラガカントゴムノキ

<分泌物はトラガントと呼ばれ、医薬品や食品の添加剤として利用される。>

薬学の世界では、トラガントと言えば、トラガントゴムノキから得られたゴム状の樹脂のことで、古くから医薬品の添加物として、丸剤や錠剤の結合剤、崩壊剤やリニメント剤の懸濁化剤に利用されてきました。
トラガントゴムノキの学名は、最新の分類学ではAstracantha gummifera (Labill.) Podlechとされていますが、かつてのAstragalus gummifer Labill. の方が一般によく通用しています。現行の日本薬局方の「トラガント」の項にも、「本品はAstragalus gummifer Labillardiére又はその他同属植物(Legunimosae)の幹から得た分泌物である。」とされています。(ちなみに日本薬局方の植物分類はエングラーの体系に依っていますのでマメ科もFabaceaeではなくLeguminosaeになっています)。
トラガントゴムノキは、イラン、クルジスタン、イラクなどの西アジアからトルコ、東南ヨーロッパの高地に自生する常緑あるいは半常緑樹の樹高1mほどの低木です。葉は互生して、偶数の羽状複葉になり、中軸の先端はとげ状に伸びています。初夏になると、葉腋から花序を出して、写真のような花をつけます。乾燥を好む植物で、また-5℃~-10℃の寒さにも耐える耐寒性も持っています。
幹や地表近くの根に傷をつけるとゴム状の浸出液が出ます。それが乾燥して硬化すると帯状に曲がりくねってリボンのような形になります。これを集めてトラガントとするわけですが、「トラガント」という言葉は、ギリシア語で「ヤギの角(つの)」を意味しており、この形から名づけられたと言われています。
トラガントは、トラガカンチンと呼ばれる水溶性の多糖40%と、バソリンと呼ばれる水に溶けない多糖60%で構成されていて、水中では大きく膨らんで無味無臭の粘性のある液になります。多糖類のほかには、わずかにでんぷんや灰分が含まれるとされています。
また、乳化剤や安定剤などの食品添加物としても利用されます。同じマメ科のアカシア属植物から採れるアラビアゴムほど名高くはありませんが、身近な食品にも使われていて、アイスクリームやケーキなどの菓子類や、ガムシロップに応用されます。変わったところでは以前は昆虫標本の台紙固定用ののりとして利用されていました。