BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

シマツナソ (モロヘイヤ)(シナノキ科)

Corchorus olitorius L.

シマツナソ (モロヘイヤ)


植物の話あれこれ 34
モロヘイヤとして有名な「シマツナソ」

「シマツナソ(縞綱麻)」は、別名で「タイワンツナソ」とか「ナガミツナソ」と呼ばれている。これらの名を聞いたことのない人も「モロヘイヤ」という名前を一度や二度耳にした方は多いと思う。近年、栄養価に富む健康野菜として評判になっているからである。

「シマツナソ」は「ツナソ(綱麻)」(Corchorus capsularis L.)と同属の植物である。ツナソは、英名で”Jute”と呼ばれている。ジュート繊維生産の代表的原料植物である。シマツナソも、ツナソと同様に、ジュート麻の原料として利用される。すなわち、シマツナソは繊維原料植物である。

この「シマツナソ」の緑葉を、原産地の人たちは野菜として食べている。特に柔らかい幼葉が使われる。学名(種名)の”olitorius”には、「野菜畑の」とか「台所用の」といった意味がある。これは、この植物が、古くから、野菜として利用されていたことを示唆している。

東南アジアや、地中海地域、アフリカなどでは、シマツナソは、古代ギリシャ時代から野菜として食用にされていたといわれている。

シマツナソの葉は、細胞が撮つけられて空気に触れると粘り気を出し、納豆のように糸をひく。アフリカ北東部では、オクラとともにたいへん好んで用いられる食材である。また、エジプトを中心とする地域では、葉を細かく刻んで、ぬめりを出し、スープとして食べる。このように、この植物は、古代エジプト以来、アラブの人たちの食卓で欠かせない野菜のひとつとして愛用されているとのことである。

日本でも、1980年代の後半から、この野菜がビタミンやミネラルが豊富に含まれていることから、健康野菜として注目されるようになり、「モロヘイヤ」という名前で栽培され、市販されるようになった。また、この野菜の乾燥粉末をソバや、ラーメン、パン、ケーキ、クッキー、飴などに添加し、健康食品として売られている。

「モロヘイヤ」という名前は、エジプト語のmulukhiyyaに由来すると言われている。

「モロヘイヤ」にはカリウムや、カルシウム、リン、鉄、カロチン、ビタミンA、B1、B2、Cなどが多く含まれている。すなわち、カロチンがニンジンの2倍、ホウレンソウの4倍、ビタミンAがアシタバの3倍、ホウレンソウの3倍、ビタミンCがアスパラガスの4倍、ミカンの2倍、ビタミンB1がホウレンソウの6倍、パセリの3倍、ビタミンB2が、ニンジンの99倍、ホウレンソウの12倍、カルシウムがホウレンソウの9倍、パセリの2倍、ブロッコリ-の8倍、カリウムがニンジンの2倍、鉄がタンジンの3倍などである。

モロヘイヤには粘性物質が多く含まれている。その主成分は、ウロン酸を含む粘性多糖質で、D-ガラクツロン酸、D-ガラクトース、L-ラムノースを構成成分とする物質である。これらの多糖質は強い保水作用をもつ。このため、モロヘイヤを食べると、その多糖質が食物中の水分を吸収し胃や腸管を刺激する。その結果、排便が促される。

また、これらモロヘイヤ多糖質の優れた保湿作用を化粧品などに応用する試みがなされている。クリーム、乳液、ファンデーション、石鹸、シャンプー、リンスなどに配合することにより、しっとりとして、いきいきとしたつやのある素肌や髪に仕上げるなどの美容効果が期待されている。

モロヘイヤ抽出物にはメラニン生成を抑制する作用を示すことも知られている。このことから美白効果を期待して、クリーム、パック、乳液、ファンデーション、入浴剤などへの応用が考えられている。

「シマツナソ」は、ツナソと同様に、ジュート麻の原料にされる。ツナソは、1年生の草本で、茎がまっすぐにのび、草丈が3~4mに達する。茎は丸く平滑で太さ3cmほどで、あまり枝分かれしない。通常、先端近くで少しだけ枝分れする。これに対し、シマツナソは、草丈が低く、茎がよく分枝する。このため採取される繊維の品質は、ツナソより劣る。

しかしツナソは短日条件に敏感に反応して花芽を形成し開花する。このため、赤道近くの熱帯地域では、茎が高く成長する前に開花してしまう。シマツナソは、これに対し晩熟種であるため、赤道近くの熱帯地域での栽培には、この種が適する。このため、バングラデシュでは栽培面積の4分の1が、この種で占められている。

ジュート麻は、熱帯やその他の地域で、米や、砂糖、ココヤシ、羊毛、コーヒーなど農産物を入れて運搬する「南京袋」(Gunny-bags)の材料として有名な繊維である。バングラデシュと、インドで、もっとも多く生産されている。収穫したツナソやシマツナソの茎は、どぶ川に漬けられる。しばらくしてから、皮を剥ぎ取り、靱皮録維のジュートを採取する。 ジュートの繊維は強靱で長く、織りやすいという特徴がある。しかし、耐久性に乏しく、水や湿気には強くないという欠点がある。このため、ロープには向かない。一方、栽培が容易で多収穫である。従って、安価である。麻袋や包装用粗布の原料として、もっとも多く用いられている。また、リノリウムの地布やジュウタンの芯などにも利用される。

「シマツナソ」は、夏に、小さな黄色の5弁の花を多数つける。その後、10本の溝のついた細長い実が着く。この果実の表面についた溝が縞模様のように見えるところから「シマツナソ」という和名がつけられたのだと思う。

「シマツナソ」は、別名で「ナガミツナソ(長実綱麻)」と呼ばれている。「ツナソ」の果実が直径1~2cmの球形であるのに対し、「シマツナソ」の果実は、長さ5~10cmの円筒形である。この植物は、ドイツ語名でも”Langkapseljute”「長い円筒状(果実)のジュート」と呼ばれている。

果実の中には、小さな緑青色の種子が多数含まれている。「ツナソ」は、中国名で「黄麻」と呼ばれる。その種子を、「黄麻子」と呼び薬用に使われる。これには、強心作用のあるアルカロイドや、配糖体が含まれている。シマツナソ種子にも、同様の成分が含まれていることが予測される。

ツナソ属植物は草本または亜低木で、熱帯を中心に温暖な地域に約40種が広く分布している。これらの種のうち、ジュート繊維の生産に利用されるのは、ツナソとその近縁種のシマツナソの2種だけである。

ツナソ属植物(Corchorus L.)の葉は、単葉で互生し、縁に細鋸歯があり、しばしば、基部の1鋸歯が剛毛状に発達し、「葉耳」とよばれる1対の針状の付属体がつく。「シマツナソ」も、葉の基部に「ちょび髭」様の針状の突起がついている。ツナソは、ジュートをとる繊維植物として有名である。しかし、シマツナソと同様に、ツナソの若葉も、野菜として食用にされる。

属名の”Corchorus”は、ギリシア語のkoreo(掃除する)とkore(瞳)に由来する。眼の病気に効果があるといわれたことに因むといわれている。この属の植物が、薬用にも使われていたことがうかがえる。

(「プランタ」研成社発行より)