アリサエマ・コンサングイネウムは中国各地に広く分布する多年草です。中国には見かけのよく似た種がたくさんあり、Sinarisaema節にまとめられています。本種の種形容語がconsanguineum (同族の、近親の)であるのも、この辺りに由来すると思われます。
アリサエマ・コンサングイネウムは6月頃、日本のテンナンショウからはかなり遅れて葉を伸ばし、初夏に一気に開花します。葉は放射状の複葉となり先端は糸のように長く伸びます。葉の展開に遅れて花序が出ます。仏炎苞は緑色で基部の内側に紫色の筋が入ります。仏炎苞の先端は葉と同じように糸状に伸びます。肉穂花序の付属体は棍棒状です。Murata et al. (2014)によれば、Hara (1971)からの引用として、A. erubescensは肉穂花序の付属体が有柄で上向きの果序、A. consanguineumは無柄で基部に不稔の花があり果序が下を向くとあります。またMurata et al.はA. erubescensは葉よりも早く花序が開き、A. consanguineumは葉よりも遅く花序が開くとしています。当館で栽培のアリサエマ・コンサングイネウムは葉の開いた後で花序が開くので上述の通りです。しかし、仏炎苞を開いて肉穂花序を露出したところ、肉穂花序は有柄で基部には不稔の花はありませんでした。これはMurata et al.が述べるA. wangmoenseに近いです。Sinarisaema節の植物は専門家でないと区別するのは難しいようです。
テンナンショウの塊茎は生薬としては「天南星」と呼び、消炎や抗腫瘍、鎮咳、去痰などに用います。生薬「天南星」は日本薬局方外生薬規格に収載されており、最新の2018年版では「本品はマイヅルテンナンショウ Arisaema heterophyllum Blume,Arisaema erubescens Schott,Arisaema amurense Maximowicz 又はその他同属の近縁植物 (Araceae) のコルク層を除いた塊茎である.」とあり、アリサエマ・コンサングイネウムは含まれていません。しかし原産地である中国のA. erubescensは上述のように区別が難しい植物であること、Murata et al.によれば真性のA. erubescensの分布はヒマラヤ高地に限定されることから、相当数のアリサエマ・コンサングイネウムも「天南星」として流通しているのではないかと思われ、実際にそのような報告もあります(小池 2018)。
Murata et al. (2014) Comments on the taxonomic treatment of Arisaema (Araceae) in Flora of China. Acta Phytotax. Geobot. 65 (3): 161–176. https://doi.org/10.18942/apg.KJ00009868527
小池直己 (2018) 葉緑体DNAによる中国産天南星の遺伝子解析.北里大学薬学部附属薬用植物園紀要.11:13-20.