植物の話あれこれ 25
種子のあるバナナ「リュウキュウイトバショウ」
私たちが日頃食べているバナナには、種子がない。実は種子があるのだけれども、食べていて種子と感じない。バナナの果 実をナイフで横切りにし、その横断面を見てみると中心部付近にいくつかの黒い斑点があるのがわかる。これに気づかれていた方も多いと思う。この黒い斑点は、実は不稔実種子の痕跡である。
このように、栽培バナナは、私たちが食べて美味しくいただけるように、種子なしの品種が育成され、これを生産のために用いられている。しかし、元はこれらの黒い斑点のところにゴロゴロとした大きな種子が数多く含まれていたはずである。
「リュウキュウイトバショウ」は、私たちが日頃食べている栽培バナナ品種の原種のひとつと言われている。そして、このバナナには、上で述べたことを実証するかのように果実の中に大きな種子がゴロゴロと数多く含まれているのである。
植物学者シモンズ(N.Simmonds、イギリス)らの食用栽培バナナの起源についての研究によると、種子なし栽培バナナのほとんどの品種は、東南アジア原産のMusa balbisiana(リュウキュウイトバショウ)と Musa acuminata(タイワンバナナ)の2種に由来するとのことである。
「リュウキュウイトバショウ」は、東南アジアからミクロネシア、ポリネシア西部まで分布する野生のバナナである。 果実は、あまり美味しくないが、現地の子供たちは、これを食べる。若い果実は、ピクルスにされる。また若い花序や偽茎の中心部などは野菜として利用される。
「偽茎」はバショウ属植物に特徴的な形態である。バショウ属植物の葉は葉鞘と葉柄および葉身に分化している。葉鞘は互いに巻き重なり、いわゆる「茎」を形成している。このような「茎」のことを「偽茎」と呼んでいる。
沖縄や奄美大島などでは、今なお「リュウキュウイトバショウ」が栽培されている。この植物の偽茎から繊維を取り、「バショウフ(芭蕉布)」を織るためである。「リュウキュウイトバショウ」で織られた布は、粗いがシャッキリした手ざわりで、人々の間で人気があり、少量であるが今も生産されているということである。
バナナは、誰もが知っているように、バショウ属植物の果実である。バショウ属植物は「リュウキュウイトバショウ」のように、果 物以外にもさまざまなかたちで利用される。デンプンを含む根茎は家畜の飼料にされる。若芽の芯は野菜として食用にされる。大きな葉は物を包むのに使われる。偽茎から得られる繊維は、ロープや、布、マットや籠の材料として用いられる。このように、非常に有用な熱帯植物のひとつである。
(「プランタ」研成社発行より)