BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

ツノゴマ(ツノゴマ科)

Proboscidea louisianica (Mill.) Thell.

ツノゴマ


植物の話あれこれ 9
悪魔の爪と呼ばれる「ツノゴマ」

この植物は、英名で”Devil’s claw”(悪魔の爪)とも呼ばれている。しかし、淡いピンクの美しい花を見ていると、とてもそのことが、イメージとして湧いてこない。

ツノゴマは、北アメリカ南部からメキシコにかけて分布する一年草で、植物体は、腺毛が密生し、べとべとしている。果実は、長く伸びた角状の突起をもち鳥のくちばしのように見える。英名で、この植物を、Unicorn flower(一角獣花)と呼ばれているが、このことに因む。一角獣は額に一本の長い角をもつ馬に似た伝説の動物で、英国王家の紋章にもなっている。

ツノゴマの若い果実は、オクラのように中身が肉質で、キュウリなどと同じようにピクルスに利用される。しかし果実が成熟するにともない、中身が木質化してき、外果皮がはじけ内果皮が末端部から裂開し、角状部分が裂けて二股に湾曲した鉤状の角になる。裂開した乾燥果実は、このように硬くて先が鋭く尖っているので、危険なことこの上ない。この果実を食べたヤギが、内臓損傷を起こして死んだり、この果実が、ひずめに食い込んで、歩行困難になった動物もいると報告されている。また、この果実が動物たちの獣毛にでも絡まりつくと、なかなか取り除くことができず、困り果てる様子が容易に想像できる。このように野生動物にとって恐れられる存在であることから「悪魔の爪」という名称で呼ばれるようになったのだと思う。また、この果実は旅人にとっても嫌なものである。この植物を別名で「タビビトナカセ(旅人泣かせ)」と呼ばれているが、このことの故である。

このように、この果実は、動物や人間にとっては困った存在であっても、この植物にとっては、とても好都合な構造になっている。すなわち動物たちに絡まりつくことにより、種子を遠くまで運んでもらい、広い範囲に種子を散布することができるからである。
成熟果実からは繊維がとれ、アメリカインディアンたちは、その繊維を使ってかごを編んだりする。また、果実の形が面白いので、色を塗って装飾物としても利用される。

(「プランタ」研成社発行より)