BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

トコン(アカネ科)

Carapichea ipecacuanha (Brot.) L.Andersson

トコン

  学生時代に生薬学を習われた方にとって、トコン(吐根)の学名というとCephaelis属がすぐ思い浮かびますが、近年の分類学ではCarapichea属に分類されています。Cephaelisは従来からのシノニムのUrgoraやPsychotriaとともにトコンのシノニムのひとつとされています。

トコンは、ブラジル特産種で、南緯8~22度くらいの高温多湿な密林中に自生する常緑の草本性小低木で、その根を乾燥させて通常は去痰薬として利用される生薬です。
茎は四稜で、10~30cmほどになり当館では地を這うように横に伸びます。夏に葉腋から短い花柄を出して先に十数個の小さい白い花を頭状花序に付けます。当館での開花は「今月の花」2006年8月でも紹介していますが、花が終わると径1cmほどの球形で漿果をつけ熟すと黒紫色になります。
根は一部ごつごつしてしわが寄っていますが、この根を乾燥させたものが生薬の「吐根」で、生薬としては3年以上の株の根を利用するそうです。
アルカロイドのエメチン、ケファエリン、サイコトリン、イペカミン、ヒドロイペカミンやアルカロイド配糖体のイペコシドなどを含むことが知られます。
学名の小種名のipecacuanhaは、現地の呼び名で「道端の吐き気を催す草」という意味だそうですが、大量に摂取すると胃粘膜を刺激して催吐作用が出るためで、少量では気管粘膜の分泌を促すために去痰剤として利用されます。また成分のエメチンは強いアメーバ毒性をしめすので、アメーバ赤痢にも利用されます。
16世紀の後半にポルトガルからブラジルに派遣された宣教師Tristaonにより、土民間で疫病に有効な薬用植物としての報告があり、欧州ではルイ14世の時代にパリの医師・Helvetiusが赤痢の特効薬として用いたことを皮切りに催吐薬、去痰薬として利用が拡大していきました。
日本でもトコンは日本薬局方の第一版から現在まで収載されている歴史の長い薬物の一つです。