BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

テンダイウヤク(クスノキ科)

Lindera aggregata (Sims) Kosterm.

テンダイウヤク

<根は烏薬(ウヤク)とも呼ばれ樟脳に似た香気があり、健胃薬にされる>

テンダイウヤクは中国南部原産のクスノキ科の常緑低木で、日本では紀伊半島や四国、九州などわりに暖かな地方に野生化しています。江戸時代の享保年間に日本に薬用として入れられたことが、小野蘭山の「本草綱目啓蒙」に出ています。大きくなると3メートルほどにもなりますが、生け垣などにも利用されているのを見かけることがあります。

葉は互生し、革質で長さ5~8センチほどの広楕円形で先が尖って、3本の葉脈がはっきりしているのが特徴です。春に葉腋から薄黄色の小花を出して散形花序になり咲きますが雌雄異株の植物です。結実すると、やや楕円形の1cmに満たない果実をつけ秋になると緑色から黒色へ熟します。果実を搾って油をとり灯用にしたこともあったようです。

薬用にするのは根で、紡錘型になった根を冬から春に掘り上げて日干しで乾燥して使用します。漢方では、気のめぐりを良くして胃腸をじょうぶにするとされて、芳香健胃薬として用いられています。現在では「日本薬局方」にも「ウヤク」として収載されています。ボルネオール、リンデランやリンデレンなどのテルペン類などの精油成分が含まれているため、根を折ると樟脳に似た香りがして薫香料としても使用されています。

秦の始皇帝が不老不死の秘薬を求めて徐福という人を東方に派遣し、日本に漂着したという伝説が知られていますが、三重県の熊野は徐福の流れ着いた地とされて、この地方では熊野に自生するテンダイウヤクこそがその不老不死の秘薬であるとの言い伝えが残っているそうです。残念ながらウヤクを飲んでも不老不死にはならないようですが、最近では活性酸素の消去作用があるとされていますので、あながちただの伝説ではないかもしれません。

テンダイウヤクの雌花
テンダイウヤクの雄花