キソウテンガイはアフリカ南部のナミブ砂漠に固有な植物で、その風変わりでグロテスクな外見と、あまりにも奇怪な様子から「奇想天外」と名づけられている。植物学的にも奇妙な特徴はつきることがなく、研究と議論の種になっている。
キソウテンガイは他の砂漠植物と異なりサボテンのような貯水組織を一切持っていない。それにも拘わらず150日も雨の降らないことがあるナミブ砂漠で生存し続け、なかには1500年も生育している株があるということである。
このことを、不思議に思っていたが、その謎が根にあることをまもなく知ることができた。株が、大きくなって大きな土管に移植することになった時、細かい根が、地下深くまでぎっしりと繁茂しているのを発見したからである。それは、どんな僅かな水をも逃さず吸収してしまいそうに思えた。
また種子を発芽させた時、根の初期生育が、おそろしく速いことに驚いた。まだ子葉が1センチにもならないのに、植木鉢の下から根の先端が出てきたのである。この植物は砂漠で生存するために必要な知恵を先天的に授かっているようである。
キソウテンガイは一科一属一種の雌雄異株の裸子植物で、1859年オーストリア人医師F.ウェルウィッチがアンゴラ南西部で本植物を発見した。葉はベルト状の2枚だけで、どこまでも伸び続け自生地では幅1m、長さ8mになるものもあるということである。種名の “mirabilis”は「驚くべき」の意味があり、当時の植物学者の驚きぶりがうかがえる。
1991年5月11日の毎日新聞(夕刊)に当館のキソウテンガイが開花したという記事が掲載された。1968年4月ポルトガルのコインブラ植物園から種子を譲り受け育成してきた個体が、23年ぶりに初めて開花(雄花)したのである。国内では2例目である。以後毎年同じ時期に開花している。
1994年春、上記とは別の個体、すなわち1973年9月南アフリカのキルステンボッシュ植物園から種子を譲り受け育成してきた個体も21年ぶりに初めて開花した。しかし、これも雄花であり、この個体も雄株であることが判明した。
1995年夏、京都府立植物園の雌株が、開花した。そこで当館のキソウテンガイの花粉を、京都府立植物園へ持参し、雌花に人工受粉を試みた。その結果 、果実が順調に成熟し、発芽能力のありそうな種子が多数得られた。そのうちの17粒の種子をいただき、播種したところ15粒が発芽した。その後、生育の過程で枯損するものもあり、結局、7株の実生個体を育成することができた。このようにして、国内で初めてキソウテンガイの2世植物を育成することに成功したのである。
(「プランタ」研成社発行より)