BOTANICAL

植物紹介
植物紹介

スナヅル(クスノキ科)

Cassytha filiformis L.

スナヅル

クスノキ科といえば樟脳の取れるクスノキ、楊枝に使われたクロモジ、料理に使われるゲッケイジュ、シナモンの原植物であるケイの仲間など、やや肉厚で芳香のある葉をもつ樹木を思い浮かべますが、今回取り上げるスナヅル属のスナヅルはその想像とは似ても似つかない姿をしているクスノキ科植物のひとつです。

スナヅル属植物は、タコ糸のような緑のつる性の植物で、葉は小さく退化して鱗片状になり疎らで、一見して糸やひものように見えます。成熟株では根もありません。いろいろな植物に巻きついて接した所に吸盤のような吸器を作り宿主に寄生する寄生植物です。一見、ネナシカズラ科のネナシカズラによく似て区別がつかないほどですが、全体に黄緑色で、自分自身も葉緑体を持っていますので光合成もしています。他のクスノキ科の植物とは著しく異なった形態をしていますが、花の構造はクスノキ科の特徴を備えているので、クスノキ科に分類されています。

オーストラリアを中心に熱帯から亜熱帯におおよそ20種が知られていて、日本ではスナヅルを含み3種が知られています。

その中でスナヅルはスナヅル属の中では最も分布が広く、熱帯・亜熱帯に見られる種で、日本では屋久島以南の南西諸島と小笠原諸島の浜辺に自生しています。

直径1~2mmほどのひも状でよく分枝し、宿主全体を覆ってしまうこともあります。熱帯では通年開花しますが、鱗片化した葉の葉腋に2~5cmほどの穂状の花序を伸ばし淡黄色の花を4~8個ほどつけ、花序の下の方から開花していきます。果実は径7mmほどの球形で、肉質の花被の筒部で覆われ、熟すとうす緑から褐色に変わります。乾燥すると茶褐色になって中に種子1個をつけます。

このような不思議な形の植物ですが、薬用にも使われることが知られ、台湾では、淋疾、腎臓病や利尿に、アフリカではトリパノゾーマによる感染症に使われたことが知られています。中薬大辞典では無爺藤(むやとう)として記載があって、「肝熱による消痩、肺熱による咳嗽、黄疸、痢疾、鼻出血、血淋、疥瘡、火傷」に薬効があるとされています。

化学成分については、全草にカッシフィリンなどの数種のアポルフィン系アルカロイドを含むことが特徴とされています。また、抗血小板活性、血管拡張作用、細胞毒性、抗酸化作用、利尿作用などの薬理作用の研究も進められています。